ラファエル前派の画家達 エドワード・バーン=ジョーンズ 『アヴァロンのアーサー王の眠り』 |
バーン=ジョーンズの画家として人生最後の畢生の大作と言えるでしょう。作品のもととなった物語は、トマス・マロリ著「アーサー王の死」(第21巻5~6章)から。戦闘で致命傷を負ったアーサー王は異父姉の妖姫モーガン・ル・フェイを含む3人の女王によって魔法の(妖精の)島アヴァロンへ運ばれ、王は永世の眠りにつきます。伝説では、その地で彼は安らい、起き上がって再度現世で信仰の行為を成し遂げよという召還の声を待っている。しかし、ここではその瞬間は引き伸ばされ、その結果を直接指し示すものは何ない。
中央には致命傷を負ったアーサー王がベンチに横になっています。バーン=ジョーンズは横になって眠るという題材を数多く描いてきましたが、その中でも代表的なのが「眠り姫」の連作で、その「眠り姫」が横たわる画面では、周囲の従者たちも眠って全体に水平の画面をつくり、それが間近に迫る王子との結合を暗示しています。これに対して「アヴァロン」ではそれがなく、垂直線(女神たちと建物)が位置をずらしながら連なっていて、これらが未解決の瞬間を表現する手段となり、また同時に静けさを強めている。つまり、伝説にある王の目覚めは引き伸ばされるのです。バーン=ジョーンズは、さらに構図に物語の実質を反映させています。すなわち、リズムの集中を彼が許容する唯一の面は、眠る王のまわりで女神たちが繭玉を形作っている中央部であります。また、この絵の色調は、しめやかな主題に合わせて全体的に抑え気味ですが、そのなかでこの中央部はひときわ明るい色を使っているのです。 それはアーサー王の眠り(死)を、彼が不滅の存在となったということを象徴させていると言えると思います。
円卓の騎士随一の槍の名手で美男のランスロットは、聖杯を祀った礼拝堂に辿り着き─「馬をつなぎ、楯を木に掛け、中へ入ろうとすることができない」。そこで「甲冑を脱ぎ、剣を外し、寝てしまい」夢を見ます。その夢では、重傷を負った騎士が夢に登場し、聖堂前で拝むと祭壇が現れ、傷が治り、聖杯はまた聖堂に入ってしまいます。足元で寝入っているランスロットを見て訝る騎士に、傷の騎士の従者は「この騎士は大罪を犯して内密にしているのです」と教えます。こうして、王の妃と不義密通を働いた罪で聖杯を手にできないということをランスロットは自覚させられ、目を覚ますのです。と声がする─「ここを立ち去れ、この聖地から消えよ」。ランスロットは泣きながら立ち去り己の生を呪うのです(トマス・マロリ著「アーサー王の死」第13巻18~19章)。この作品は、その場面を描いたものです。聖堂の前に立つ天使はこの声を描いたものと言えると思います。
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