英国ロマン派展
ロセッティと彼の影響を受けた人々
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、フレデリック・サンズ、ソロモン
 


ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティはラファエル前派の中心的な画家であり、ヴィクトリア朝時代を代表する画家といってもいいと思います。彼の影響を受けた画家は少なくなかったと思いますが、ここでは、こじつけかもしれませんが、そう思える人々をひとまとめにしてみたいと思います。

 

■ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ

言わずもがなの有名作家です。ここでは、画家の紹介は不要だと思いますので、早速作品を見ていきたいと思います。「閨房の庭」(右図)という水彩画です。ちょうど、彼が復古的な中世の装飾写本などに注目していた時期の作品で、観念的でロマンティックな想像上の中世風に仕立てた作品です。背景の赤い煉瓦の壁の上には、垣根のように果樹が植えられている。中央には、二人の女性が向き合い、左側の女性はワインの瓶と布を乗せた盆を持っている。おそらく、右側の女性に仕えているのであろう、簡素な服を着て、右側の女性を見つめて、盆を捧げているように見える。一方、右側の女性は、脚の長いグラスからワインを飲んでいる。主人だろうか鮮やかなショールをかけて、傍目を気にせずワインを飲み干している。庭仕事は終わったのか、じょうろが地面に置かれている。画面は、中世のタペストリーのような平面的で素朴さを意図しているようで、明るく鮮やかな色彩が印象的である。

また、「ダンテの夢─死せるベアトリーチェの習作」(左図)は、チョークによるドローイングで、水彩画「ベアトリーチェの死の時のダンテの夢」のレプリカとして画家自身によって制作されたものだそうです。いかにも、ロセッティの描く女性の典型が個々にあります。豊かな髪、肉厚の唇、そして尖った顎、そして印象的な大きな瞳は閉じられていますが、ロセッティのトレードマークと言ってもいいものです。

 

■アンソニー・オーガスタス・フレデリック・サンズ

デザイン学校で学び、当初は挿絵画家として活躍していましたが、1850年代から60年代にかけては、聖書や神話、そして文学を主題とした油彩画を描いていくようになります。彼のデッサン力は数多くの画家の中でも一際群を抜いていたといいます。彼の描く素描は、熱にうかされたような想像力が際立って画面全体に広がっており、彼自身「空想画家」と称されて非常に絶賛されたそうです。そして、彼はそんな自分のデッサン力の才をあますところなく発揮し、肖像画家として成功を治めたといいます。

「愛の影」(右下図)という作品は、まるでロセッティの描く女性像を横顔にして描いているような錯覚さえ覚えるものです。赤毛の豊かな髪とか、尖って突き出したような顎とか、大きな瞳とか、全体的な顔の感じはロセッティの描く典型的なパターン、例えば、この展覧会では「ダンテの夢」のドローイングの女性像と、この作品を並べて見ると、作品の趣きは異なりますが、その女性の形象は似通っているように見えます。ロセッティにはない激しい感情をぶつけるような表情で、手に持った花束を噛み千切る、歯を立てた口のさまや、強い瞳の怒りを露わにする表情などは、ロセッティには見られないものではありますが。それが、ロセッティの描く女性は現実味のない神秘性に彩られ、あくまでもキャンバスの中の存在ですが、サンズの描く女性は、より現実的に違づいて生身の女性を感じられるようになっているように見えます。多分、それが彼が肖像画家として成功した素質の性向によるものかもしれないと思います。

「カッサンドラ」(左下図)という作品は、そういう傾向をさらに推し進めたように見えます。平面的なロセッテイの女性を3D画面に変換させたような感じで、アングルをロセッティから絶対に描かない、描けないところで描いています。

 


 

 

 
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