3.(4)その他
15)IRツールとしての決算短信
〜目標とする経営指標
 

 

この項目は、前回検討した「会社の経営の基本方針」によって示された、“会社は将来こうなるのだ”ということを例えば売上規模だったり株主価値の創出であったり、投資家にとって分かりやすいものさしに当てはめるところです。このように数値化することで、言葉ではあいまいだったことが明確化することになります。その結果として、他の会社でも数値化しているのですから、同じ指標をとっている会社の容易に比較することができることになります。投資家の立場に立ってみれば、その会社の経営の基本方針を相対的に評価することが可能となるわけです。例えば、会社が基本方針として打ち出していることが、容易なことなのか、それとも困難なことなのかということが、他の会社と比較して一般的にはどの程度の数値が目標となっているかを推測し、その一般値とその会社の提示している目標値を比べることで難易度を推し測ることができるわけです。

そして、数値化することのメリットは他にもあります。この目標に対して、実績がどの程度まで迫っているかを数値では定量的に把握できるため、進捗状況が一目で把握できることになるわけです。

では、この項目をどう書いていくかを検討していきましょう。ここまで述べて来たように、前の項目である基本方針を具体化させたのが、この項目ということになって、この後に来る経営戦略は、ここで説明された指標の数値を向上させることが戦略目標となります。だから、この項目は戦略の上位にあるといえます。

そのような、この項目の位置を考えた上で、実際の各社の決算短信の記述をみてみると、ほとんどの場合、こういう指標を選択しているということと、場合によっては、その指標での目標値を書いているというもののようです。しかし、これまで考えてきたストーリーという流れを見てみると、前項の「会社の経営の基本方針」を具体的に数値化されたものとして「目標とする経営指標」が出てきたわけですから、どうしてこのような経営指標をとっているのか、経営の基本方針との関係を説明するということが、まず、あってもいいと思います。これが一目瞭然で敢えて説明する必要がないというのならともなく、ほとんどの会社では、前項とこの項目との関係が全く見えず、それぞれが無関係にただ並んでいるだけという書き方がされています。

逆に、なぜこの指標をとっているのかという理由を説明することによって、前項の基本方針を補完することもできると思います。中には、指標を選択した理由を説明しようとしているケースもありますが、とってつけた感を否めません。

一方、こういう指標を選択している理由があれば、その指標でここまでやりたい、あるいはこの程度はやらなくてはならない、といったことで目標値を設定しているわけでしょうから。指標を選択して、目標を設定していないということは企業活動としては考えられません。予算と実績というのが企業経営の原則的なあり方ですから、当然目標は設定する筈です。そして、決算短信のこの項目で、目標値を書いているケースはあれますが、どうして、そういう目標にしたのかという理由までは説明されていません。その理由が分かると、目標を設定している会社の本気度とか、取り組み姿勢が推測できます。ここまで説明されて、ある指標を選択したという説明が完結すると、私は思います。

そこで、次の項目の経営戦略に移ったときに、説得力が違ってくると思います。


(4)16)IRツールとしての決算短信〜中期的な会社の経営戦略・課題 へ

 
IR論考目次へ戻る