4.株主総会の実務(2)〜文書
(3)株主総会参考書類 剰余金処分に関する件「配当について」 |
●「配当」とは何か 企業は企業価値の向上に資する積極的な投資を可能な限りまかなったうえで、なお余剰資金がある場合には、企業は毎年、純利益や利益余剰金から株主還元を行います。株主還元には、一般的には、配当と自己株式の取得の2つがあります。企業が基本的に当期純利益の一部を現金で株主に分配することを配当といいます。 この当期純利益に対する配当の割合を配当性向と呼び、配当を株価で除したパーセンテージを配当利回りと呼びます。 配当性向(%)=配当金÷当期純利益 配当利回り(%)=配当金÷株価 ●剰余金の配当についての会社法の基本的な考え方 会社法では453条で「株式会社は、その株主に対し、剰余金の配当をすることができる。」と規定され、旧商法において「利益の配当」とされていたのと異なり、「株式会社の配当財産を株主の有する株式数に応じて分配する行為」として規定されました(会社法454条3項)。旧商法の下では、株主に対する会社財産の分配を行う場合は、株主総会決議による利益処分としての「利益配当」及び取締役会決議による「中間配当」に限られていましたが、会社法では所定の財源規制の下、1事業年度中に回数の制限なしに実施することができるようになりました。 これに対する株主の「剰余金の配当を受ける権利」(会社法105条1項1号)は、従来からの株主の権利(自益権)のうちでは最も基本的なものの1つとして位置づけられていますが、一方では、株主有限責任原則の制度的裏づけとしての会社債権者保護のため、分配可能額の制限等の財源規制が課せられています。 剰余金の配当は、その都度株主総会決議で行うというのが会社法の原則です(会社法454条1項)。ただし、次の2点については例外として取締役会の決議により決定することができます。 (@)中間配当 取締役会設置会社は、1事業年度の途中において1回に限り取締役会の決議によって剰余金の配当をすることができる旨を定款で定めることができる(会社法454条5項)。いわゆる中間配当です。 (A)分配特則規定 次の2つの要件を満たす場合は、株主総会によらず、取締役会決議で剰余金の配当等を行なうことができる旨を定款に定めることができる(会社法459条1項)。 ・取締役の任期が1年以内であること ・会計監査人及び監査役会(または監査委員会)が設置されている株式会社であること なお、実際に取締役会の決議によって剰余金の配当を行う場合には、事業報告において、「取締役会に与えられた剰余金の分配に関する権限の行使に関する方針」を記載しなければなりません(126条10号)。これは、剰余金をどのような方針で内部留保に充て、また株主に分配するのか、さらには株主資本の各項目をどのようにするかなど、全般的な方針を明らかにすべきものと考えられています。 A分配可能額 剰余金の配当により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、剰余金の配当の効力を生ずる日(金銭の支払い開始の日)における分配可能額を超えてはならないとされています(会社法461条1項8号)。その額の算定方法は会社法446条に定められていますが、基本的な計算式は次のようなものです。(実際には、ここに様々な検討事項が付加されて計算されますが、ここでは基本的な原則に留めておきたいと思います) 剰余金の額(基本部分)=資産の額+自己株式の帳簿価額の合計額−負債の額−資本金及び準備金の合計額−(資産の額+自己資本の帳簿価額の合計額−負債の額−資本金及び準備金の合計額−その他資本剰余金の額−その他利益準備金の額) =その他資本剰余金の額+その他利益剰余金の額 ●配当政策の面から見た配当金の考え方 配当に関する企業の戦略を配当政策といいます。この配当政策は、各企業の置かれた環境や経営状態によって違います。その際に考慮される要素や配当のメリットを以下に簡単に上げていきます。 @企業のライフサイクルによって配当政策は異なる 一般に、高配当=低成長(キャッシュを投入すべき投資案件が少ない)、低配当=高成長(キャッシュを投入すべき投資案件が多く、配当にキャッシュを回せない)という傾向が見られます。グーグルに配当金を要求する株主は少ないでしょう。逆にP&Gのように数十年にわたって配当の増配を続けている企業もあります。 A安定配当による効果 経営者の中には、会社の業績に連動した配当よりも安定した配当を目指す傾向の人も多い。減配は資本市場に嫌われ、株価が下がるケースも多いので、いったん配当を引き上げたら簡単には引き下げられないと経営者は分っているので、保守的に安定配当を目指すというわけです。特に日本では配当金の変動と株価の変動の相関関係が強いと言われています。日本における配当の株価への影響度は、米国と比べ3倍とも言われています。投資家には配当選好の強い投資家がいるので、そうした顧客ニーズに合わせて配当することで株価に良い影響がでて、結果として配当が価値を創造することもあるわけです。 Bアナウンスメント効果 例えば、増配は将来にわたっての持続的な収益向上に経営陣が強い自信を示した証と解釈されて、株価が上がることがあります。また、業績が落ち込んだ時に、配当を減配としないでいると、経営陣は業績悪化は一時的で回復への自信がある証拠と解釈されて株価の低下を抑えることがあります。これをアナウンスメント効果と呼びます。 C配当割引モデル 投資家の中には、投資家が享受する株式投資からの便益、あるいは価値は未来永劫の流列の中では、究極的には投資家の受領する配当金の流列に帰結するという企業価値評価の考え方を持つ人もいます。この評価モデルを配当割引モデルといいます。これは株式を売却しない限り、投資家が現実に投資の果実として受け取るのは現金配当だけという前提で、こうした手法を使う投資家は基本的に配当を好みます。 D残余利益配当方針 結局のところ、余剰利益のうちいくら配当として現金払いするかは、投資機会と最適資本構成によるという考え方です。投資家は自分で再投資する以上の投資案件があれば低配当を受け入れます。一方で、企業に本業への投資機会がなく、自己資本を高める最適資本構成上の必要性もなければ、投資家は高配当を要求するわけです。ただし、一般に、企業サイドに本業で良質な(資本コストを上回る)投資案件があれば、できるだけ投資案件を利益や内部留保でまかない、もしそれで当期利益が余れば残りを配当するというのが、この方針の基本になります。ファイナンス理論に長けた機関投資家はこの方針に賛同する傾向にあります。
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