WARNE MARSH(ウォーン・マーシュ)
 


ウォーン・マーシュ(テナー・サックス)

テナー・サックス・サックス奏者。レニー・トリスターノのもとで当初はトリスターノ派のクールなプレイをしていた。同門のアルト・サックス奏者、リー・コニッツのテナー・サックス版と言うとご本人には失礼ではあるけれど、イメージを捉え易いと思う。

ということは、情緒的なものを前面に出さず、親しみ易いメロディのかたちをつくらない、うねうねするようなフレーズを延々と連続させる、というところはコニッツと共通している。しかし、コニッツは年々トリスターノの影響下から離れ、ウォームなプレイに移行したのに対して、マーシュはトリスターノ流の即興を師匠以上に追求したとも言われる。アンソニー・ブラクストンという批評家は、マーシュのアドリブについて、メロディという横の音の線ではなくハーモニーとかコードという縦の音の重なりを重視した即興であるとして、「最も偉大なタテの即興」と呼び称えている。

私の主観的な印象ではあるけれど、共通点の多いリー・コニッツと比べてみて、コニッツはメロディに対する志向が残っているようで、彼のうねうねプレイは、メロディをかたちづくろうとしてメロディになろうとする手前で逡巡している、メロディになれそうでなれない、という宙ぶらりんの感じがある。それを聴いた印象として、どこか満たされない、物足りないと言った感じが、一種の焦燥感、その先の不安定さといった感情を促すところがある。線の細い、コニッツ独特のアルト・サックスの音色と相俟って、瑞々しい印象を与えるのは、そのためだ。これに対して、マーシュの場合は、似たようなうねうねプレイに、メロディ思考は希薄で、タテの線であるコードやハーモニーを重視しているため、このうねうねがむしろ適している。そのため、コニッツには感じられる物足りない感じがない。むしろ、言いたいことが過不足なく言えている完結した感じがあって、安定して聴こえてくる。そのため、コニッツの場合のように感情を掻き立てるというのではなくて、音が自立していて、感情を伴わずにどっしりした音の構築物を、音だけを即自的に捉えることができる。

 

バイオグラフィー
リー・コニッツと並びウォーン・マーシュは、レニー・トリスターノの影響を受けた中で最も成功したプレイヤーだった。後年トリスターノから離れて独自の道を歩んだコニッツとはちがって、マーシュはトリスターノの方法論の従って和声によって組み立てていく即興を追求し続けた。トリスターノと出会う前には、1944〜45年ホーギー・カーマイケルのティーンエイジャースとプレイし、兵役に就いた後の1948年バディ・リッチとプレイした。トリスターノ、コニッツと共にレコーディングした彼のプレイは、後の2本サックスがあたかも1本のサックスのように聞こえてしまうほど息の合ったものだった。トリスターノ、コニッツとは、その後何度も共にセッションしている。1966年ロサンゼルスに移り、1972〜77年スーパーサックスで働き、教育にも力を注いだ。彼は1987年クラブで演奏中に倒れ、伝説の人物となった。

 



Warne Marsh    1956年12月12日、1957年1月16日録音

Too Close For Comfort

Yardbird Suite

It's All Right With Me

My Melancholy Baby

Just Squeeze Me

Excerpt

 

Bass – Paul Chambers (3)

Drums – Philly Joe Jones* (tracks: A1, A3), Paul Motian (tracks: A2, B1 to B3)

Piano – Ronnie Ball (tracks: A1, A3)

Saxophone [Tenor] – Warne MarshI   

 

 

マーシュのテナー・サックスの音色を“ひしゃげたような”とか“鼻づまりのような”とか、なんとなく音が鳴り切っていない寸詰まりのような中途半端な感じで、サックスを吹き切る爽快さというのはない。ただし、これは聴く人によっては、ホワン、フワフワした刺激の少ない心温まるトーンとなる。いずれにせよ、マーシュ独特の音で、彼が音色とか音のニュアンスとか装飾とか、そういうもので勝負しない人であるのは、彼の音を取り出しても分かるのではないか。マーシュには悪いが、お世辞にも聞き惚れるような音ではなく、自然とマーシュの創り出す即興のフレーズに注目する以外にない。余計な要素を削ぎ落として、ひたすら即興に集中するという禁欲的とも言える。とは言っても、何か変、というのがマーシュのプレイだ。最初の「Too Close For Comfort」は、曲の途中で尻切れトンボのようにフェイドアウトして終わってしまう。しかも、ベースによるリズムの刻みに徹したソロが1分ほど続き、ベースの背後に隠れるようにそっとマーシュのサックスがテーマを低く吹きながら入って、これからアドリブに入ろうと言うところで、フェイドアウトしてしまうので、唐突の感じが強く、宙ぶらりんの感じがする。しかし、これで緊張感が高まることは事実で、次の「Yardbird Suite」の軽快なテンポになだれ込むように入る。また、ラストの「Excerpt」も「Too Close For Comfort」と同じように演奏の途中でフェイドアウトしてしまう。アルバムの終わり方がそうだと、全体に宙ぶらりんで放り出された印象を受けてしまう。とくに、「Excerpt」はマーシュのソロの即興プレイの終始し、緊張感の高いものであるのに、ベースの煽るようなブンブンしたフォローもあって耳に心地よく聴き流せてしまう。ある人は、このプレイはアイリメンバーエイプリルのコード進行で、それをベースに即興的にフレーズを創り出しているという。私の個人的な印象だけれど、このプレイはArt Pepperが『Modern Art』というアルバムの「Blues Out」という最後の曲でサックスだけ、他の楽器が入らず一人で即興的で緊張感ピリピリのプレイをしているが、それに比肩する高いテンションのプレイだと思う。両方とも表面的にはリラックスしているようだが、そのフレーズの端々に緊張感が漲っている。

例えば、3曲目の「It's All Right With Me」は、ソニー・ロリンズも『Work Time』の中で同じ曲を演っている。最初のテーマのテンポはほとんど変わらないけれど、サックスの音が全然違って、ロリンズの伸びのある音色と比べると、マーシュは同じようにテーマを吹いても躊躇いがで、おずおずしているような印象。その後、マーシュはテンポや音の強さをキープするのに対して、ロリンズはテンポが上がり、音量を増して、劇的な盛り上がりを見せる。それがホットな印象を与えるのだろう。軽快なテンポは加速することで疾走感が生まれている。マーシュの場合は、むしろ厳格にテンポを守っていても、疾走感を失うことはなく、盛り上がるロリンズに対して、醒めている感じだが、その底には炎が仄見えるという印象。また、二人の即興的なフレーズの違いは、敢えて言及していない。

全体として、ベースが前面に出て、マーシュのサックス以上に目立つこともあり、ベースソロも多く、終始マーシュを煽るようでいるので、マーシュのリーダー・アルバムというよりも双頭リーダーといってもいいくらい。しかし、それが却ってよい方向に出ていると思う。マーシュのプレイの特徴であるうねうねフレーズはホンホカしたサックスの音色と相俟って、なんだかわからない節になっていないのが延々と垂れ流しになる印象を受けやすい。例えば、同じトリスターノ門下のLee Konitzの『Motion』ではアルバム全体を通して、うねうねフレーズが延々と続くので、聴く人によっては金太郎飴のような印象を受ける。これに対して、ここでのマーシュのプレイは、ベースがいいアクセントとなって、うねうねプレイに区切り、敢えて言えば句読点を与えているようで、メリハリがある。しかし、とはいっても、流麗にテーマを歌っていたと思ったら、うねうねの即興フレーズに突然、なんの脈絡もなく転換してしまったりするので、一筋縄ではいかず、ときに驚かされるので、聴く側としては緊張を強いられる。 

 

Art Pepper With Warne Marsh

I Can't Believe That You're In Love With Me (Orig. Take)

I Can't Believe That You're In Love With Me (Alt. Take)

All The Things You Are (Orig. Take)

All The Things You Are (Alt. Take)

What's New

Avalon

Tickle Toe

Warnin' (Take 1)

Warnin' (Take 2)

Stomping At The Savoy

 

Art Pepper (as)

Ben Tucker (b)

Gary Frommer(ds)

Ronnie Ball(p)

Warne Marsh(ts)

 



 
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