WYNTON KELLY(ウィントン・ケリー)
 

ウィントン・ケリー(ピアノ)

ピアノ奏者。1931〜1971年、西インド諸島ジャマイカ生まれ。
 いわゆるバド・パウエルのプレイ・スタイルをベースにしたパウエル派と呼ばれるピアニストたちの一人。マイルス・デイビスのコンボにいたりと伴奏者として数多くの演奏に参加している。ケリーの特徴を簡単に言えば、健康優良児的な、脳天気といってもいいようなハッピーなコロコロと明るく転がるようにフレーズがスイングする。端正に転がるようにスイングするのではなく、独特の揺らぎをもって、この「揺らぎ」が翳りとなってスイングする。聴き手を圧倒するようなテクニックをひけらかした表現はなく、いかにもケリーらしい自然にスイングする演奏を楽しめる。どんな曲を取り上げても、ケリーは同じようにスイングさせている。こうした特徴のうち、最も注目したいのは、ビートからずれてひきずるような感じだ。これは、ファンの間では「3連系」のスウィング感と呼ばれているようだ。次のように説明する人がいる。“3連系というのは「3連符らしき」ということで、8分音符を2つ弾くときに、それが「たあ・た、たあ・た」のように、前が2に対して後ろが1、のように感じられるということだ。ジャズのスウィング感はこの「3連系」が基本で、フォービートでドラマーがシンバルを叩くときも、「ちーん・ちっき、ちーん・ちっき」となる、「ちっき」の部分が3連の2:1となっている。ちなみに、ケリーの乗りを厳密に計測すると、さすがに「2:1」ではなくて、前の方がほんの少しだけ長いぐらいだ、といだけれど、まあ気分としては「2:1」の乗りだ。ケリーのハッピーな3連乗りは、それだけで「ジャズの幸せな時代」に我々を連れて行ってくれる。”と。ケリーは、自分の音楽が偶然に生まれたものだと見せる力を持っていたのだと言える。このように陽気にスイングする音楽は、まるで普通に息をするかのように自然な感じで表現されていた。ほとんどのリスナーは、ケリーの存在をとくに意識することがなかったのは、そのためである。それが、伴奏者として共演者をひきたてるのに上手く作用したのだろう。

ケリーのソロは、ブロック・コードとファンキーなオクターブによるトレモロを交互に使い分けながら進んでいく。しかし、彼のソロを聴いていても、いつどこでシングル・トーンからブロック・コードに変わるのか、聴いている方にはさっぱり予想がつかない。それに加えて、ケリーは間合いや強弱のアクセントをうまく使いこなすことで、自分の音楽を活気あふれるものにした。

 

 

バイオグラフィー

マイルス・デイビスやキャノンボール・アダレイに愛された素晴らしい伴奏ピアニスト、ウィントン・ケリーは10年後のベニー・グリーンに多大な影響を与えた特徴あるソリストでもあった。彼はブルックリンで育ち、早くからエディ・“クリーンヘッド”・ヴィンソン、ハル・シンガー、エディ・“ロックジョー”・デイビスらとリズム&ブルースのバンドでプレイしていた。1951年にブルー・ノートにトリオで14タイトルをレコーディングしたケリーは、1951〜52年、ダイナ・ワシントン、ディジー・ガレスピー、レスター・ヤングらとプレイした。数年の兵役の後、1955〜57年にはワシントンと、1956〜57年にはチャーリー・ミンガスと1957年にはディジー・ガレスピーのビッグ・バンドと強い印象を残した。しかし、彼の業績の中で最も有名なのは「Kind of Blue」「At the Blackhawk」「Someday My Prince Will Come」のようなアルバムのレコーディングなどのマイルスとの仕事だ。彼はベースのポール・チェンバースとドラムスのジミー・コブのリズム・セクションの二人とともにマイルスのもとを離れ、トリオを結成した。このグループは、ウェス・モンゴメリーの最高のバックをつとめた。その早すぎる死までの短い間、ブルー・ノート、リバーサイド、ヴィー・ジェイ、ヴァーヴ、マイルストーン等にリーダー・アルバムを残している。 

KELLY AT MIDNTE               1960年4月27日録音

Temperance 

Weird Lullaby

On Stage

Skatin' 

Pot Luck

 

Wynton Kelly (p)

Paul Chambers (b)

Philly Joe Jones (ds)

 

ウィントン・ケリーのピアノは、健康優良児的に、ポジティブにスイングするのが特徴で、コロコロと明るく転がるようにフレーズがスイングする。端正に転がるようにスイングするのではなく、独特の揺らぎをもって、この「揺らぎ」が翳りとなってスイングする。この好調にスイングし続けるケリーの「コロコロ」ピアノのバックで、バシンビシンとスネアをひっぱたく様な、野趣溢れる奔放なフィリー・ジョー・ジョーンズのドラミングと、ブンブンブンと弦を鳴り響かせながら、堅実・冷静に魅力的なビートを供給するポール・チェンバースのベースが 「聴きもの・聴きどころ」である。とくに野趣溢れる奔放なフィリー・ジョーのドラミングは、ブラシよりもスティックを用いている演奏が多いためか、ちょっとした間に入れるスネアの「オカズ」さえも、タッカ・タカ・タカと大きく響きわたり、それが、聴きようによっては、耳障りに感じるかもしれない。このスネアやリム・ショットの一打一打が、演奏を鼓舞し、エネルギー増幅装置となっているので、聴いているこちらの方も、何やらパワーを貰ったような錯覚に陥ってしまう。これに煽られるように、ケリーのピアノもボルテージが上がって、タッチがとことん強くなり、三位一体のテンションの高い、レベルの高いピアノ・トリオの演奏を聴くことが出来る。このテンションの高さのお陰で、このアルバムはスタジオ録音ながら、ライブ盤の様なテンションの高さと奔放さ、そして、なによりトリオ演奏の全編の底に流れる「楽しさ」が魅力。

このアルバムに限らず、ケリーのピアノは聴き手を圧倒するようなテクニックをひけらかした表現はなく、自然にスイングする。どんな曲を取り上げても、ケリーは同じようにスイングさせている。こうした特徴のうち、最も注目したいのは、ビートからずれてひきずるような感じだ。この傾向は、フレーズの最後に向かって滝のように下降していくところによく表われており、ケリーお得意のフレーズである。らせんを描くように下りていく様子は、リズムをずらし、その結果ピアノとドラムによって生まれた緊張感を保ちながら、途中で何度か上昇を繰り返しつつ進んでいく。ケリーのソロは、ブロック・コードとファンキーなオクターブによるトレモロを交互に使い分けながら進んでいくが、いつどこでシングル・トーンからブロック・コードに変わるのか、聴いている方にはさっぱり予想がつかない。この点で、レッド・ガーランドやエロール・ガーナーから影響を受けた多くのピアニストと一線を画している。その代りに、間合いや強弱のアクセントをうまく使いこなすことで、自分の音楽を活気あふれるものにした。それまでのピアニストにはあまり見られなかった八分音符による跳躍という手法を完成させたのも、ケリーだった。 

Kelly Blue  

Kelly Blue

Softly,As In A Morning Sunrise

Do Nothin' Till You Hear From Me

On Green Dolphin Street

Willow Weep For Me

Keep It Mooving (take 4)

Keep It Mooving (take 3)

Old Clothes

 

Wynton Kelly (p)

Paul Chamers (b)

Jimmy Cobb (ds)

Nat Adderley (cor)

Benny Golson (ts)

Bobby Jaspar (fl)

1959年2月19日録音(1,,7)

 

Wynton Kelly (p)

Paul Chamers (b)

Jimmy Cobb (ds)

1959年3月10日録音(その他)

 

ウィントン・ケリーがマイルス・ディビスのバンドをやめて、そこで一緒だったベースのポール・チェンバース、ドラムのジミー・コブとトリオを組んで録音したもの。ケリーのリーダー・アルバムとしては3作目にあたる。ただし、全曲がピアノ・トリオではなく、1曲目でアルバム・タイトルとなっている「ケニー・ブルー」と「キープ・イット・ムーヴィン」の2テイクはホーン3人が加わったセクステットで演奏されている。

最初の「Kelly Blue」はベースに導かれたフルートが探るようにテーマを吹くと、他の楽器が追いかけるように重なってきて、すぐにケリーのピアノ・ソロに移る。この人のピアノは跳ねるようと形容されることが多いようだけれど、まるでピアノの鍵盤を真上の高いところから垂直に指を落として深く叩くように音を出している感じがする。それは、混じり気のない、強い音で、鍵盤のハンマーの反発力を最大限に使う撥ねるような感じなのだ。ここでは、ソロは措いて、そういうピアノの音と、籠もったような響きで下腹にモロに伝わっているような重いベースによって刻まれるリズムに身をゆだねたい。

次の「Softly,As In A Morning Sunrise(朝日のようにさわやかに)」からはピアノ・トリオの編成に変わって、とくにこの演奏は従来より大傑作録音といわれ、こういう洒落たブルースでの“ケリー節”が炸裂した代表曲のひとつとされている。独特の鍵盤の上を転がるようなシングルトーンのソロが素敵で、とにかくリラックスして軽快で歌心に溢れている、と。輪郭のくっきりしたピアノの音はカラッと乾いた印象で、少しダークな曲の調子をスッキリさせるもので、詩情とかそういったものより、純粋に音の運動を愛でるタイプで、純音楽的。「Do Nothin' Till You Hear From Me」のような軽快なナンバーでこそ、跳ねるピアノが合っている。「On Green Dolphin Street」ではこのちょっと変則的なリズムと旋律を持つ曲に、ケリーのピアノは、うまくツボを押さえたノリのいい演奏にまとめている。「Willow Weep For Me」では、ミディアム・テンポのブルース・ナンバーを、音数の少ないシンプルな響きでもスカスカになることなく、スウィンギーなグルーヴを生んでいる。ケリーのピアノの真骨頂は、アドリブのフレーズとか作曲といったところよりも、このノリとかグルーヴを生み出すところにあると思う。 

WHISPER NOT        1958年1月31日録音

Whisper Not

Action

Dark Eyes

Strong Man

Ill Wind

Don't Explain

You Can't Get Away

Dark Eyes

 

Wynton Kelly (p)

Kenny Burrell (g)

Paul Chambers (b)

Philly Joe Jones (ds) #1,2,3,8

 

ライナー・ノート等の解説ではドラムスのフィリー・ジョー・ジョーンズが遅刻したために、急遽ドラムがないまま録音を始めてしまったという。禍転じて福というわけではないのだろうけれど、結果としてドラムレスのピアノ、ギター、ベースという3人の変則的な編成が、ケリーのリズミックなピアノの良さと、艶やかでブルージーなケニー・バレルのギターの味わいが、より前面に出すことになった。

4曲目の「Strong Man」から7曲目の「You Can't Get Away」の4曲の演奏がドラムレス。「Strong Man」では、ギターとベースが何とも言えない温もりと力強いリズムに刻みに絡むようなピアノがリズミックで、ミディアム・テンポの曲なのに、推進力の強い演奏になっていて、メジャー・コードの使い方などによって、バップでは珍しい聴く者を力づける応援ソングのような雰囲気。ピアノ・ソロでは力強くリズムを牽引しているのに対して、続くケニー・バレルのギターは後ろ髪を引かれるような後ノリで、この全体のバランスが絶妙。二人のあうんの呼吸でやっているのだろうけれど。ケニー・バレルのリズム・ギターで終わるところが何とも洒落ている。「Ill Wind」は、通常スロー・テンポで演じられる暗い曲なのが、ここでは颯爽としたリズミックなアレンジで展開し、何よりもケリーのピアノが肯定力に充ち満ちて何とも力強い。ケニー・バレルの息の長いソロに対して、バックのケリーがリズミックなフレーズで絡んでいく。「Don't Explain」では、ケリーがスローなテーマをじっくりとオカズを入れずに少ないと音で淡々と弾く(それが保つのが凄い)のに対して、ケニー・バレルが正攻法で対向する。二人が、少ない音数の音楽性だけでバトルするように聴かせあいするところが、この曲の聴きどころ。これだけ遅いテンポで、隙間だらけのような音の数であるのに、少しも弛緩したところのなく、しかも推進力のあるところが凄い。 

 
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