BARRY
HARRIS(バリー・ハリス) |
この3人を比べて聴いてみると、例えば、バリー・ハリスとトミー・フラナガンを比べると、フラナガンはずっと詩情豊かなスタイリストと思われている。一方ハリスにはバラード演奏も知り尽くしているにもかかわらず、激しいドライブ感を持つピアニストといったイメージがある。ハンク・ジョーンズやフラナガンよりも直系のパウエル派といったイメージが、ハリスの演奏にはある。実際の響きで言うと、ハンクとフラナガンがもっともブルージーな時でも、照り輝く太陽の明るさを感じさせるのに対し、ハリスの演奏はどことなく屈折した、暗いハード・バップ特有のエネルギーを感じさせる。この傾向はとくにミディアム・テンポの曲で現われ、こうした状況でのハリスは、なんともいえぬ魅惑的で深いグルーヴを生み出すといえる。 ハリスの演奏はビートの表面をなぞったりビートの上に浮いているのではなく、自らをビートにしっかりはめこんでいる。これによって─堅実なベースとツボを押さえた激しいドラミングとともに─重いスイング感をつくり出している。ハリスはフレーズの最初のビートを不意を突いたように激しく叩いているが、しだいにその音量は弱まっていく。こうしたすべての要素が「味わいながら演奏する」というハリスの姿勢を決定的なものにしている。その点で、ハンクやフラナガンよりも、ハリスは激しくスイングするピアニストと言える。 しかし、バド・パウエルのようなエキセントリックなほどの強引さ、アグレッシブさはなく、他のミュージシャンの演奏を聴いて全体のバランスや調和を考えて、最終的には落ち着くべきところに収まる結果となっている。
バイオグラフィー バリー・ハリスは、20世紀後半のハード・バップの主要なピアニストの一人であり、バド・パウエルにとても近しい響きを、長年にわたって持ち続けた。また、彼はセロニアス・モンクの影響をうがかわせていたが、彼自身のスタイルはバップの領域を出るものではなかった。彼は1950年代のデトロイト・ジャズ・シーンの重要なメンバーの一人で、そのころからジャズの教育者でもあった。ハリスは1958年にリーダーとして最初のレコーディングを行い、1960年にニューヨークに出た。そこでキャノンボール・アダレイのクインテットに短期間在籍した。彼はまた、デクスター・ゴードン、イリノイ・ジャケ、ユセフ・ラティーフ、ハンク・モブレーとレコーディングを行い、コールマン・ホーキンスとは晩年に至るまで10年間たびたび共演した。1970年代には、ソニー・スティットの2つの素晴らしい録音(「チューン・アップ」と「コンステレイション」)に参加し、その他様々なレコーディングを行なった。ハリスは70年代中頃から、彼自身のトリオで演奏することが殆どになり、リーダーとてレコーディングを行なった。
Barry Harris At The Jazz
Workshop 1960年5月15、16日録音 Star
eyes Lolita Barry
Harris (p) Sam
Jones(b) Louis
Hayes(ds) キャノンボール・アダレイのメンバーたちとのサンフランシスコのライブ録音。これぞピアノ・トリオというような演奏が詰め込まれているのだけれど、正攻法で外連味のないところは、他方で突出したところがなくて、地味な印象を与えてしまうのは惜しい。 最初の「Is you or is
you ain't my
baby」は、ライブの劈頭を飾るには地味で、これから始まるぞという迫力に乏しいのだが、古いR&Bナンバーの秘められたペーソスとか、やるせなさみたいな情感を大切したバリー・ハリスの解釈が絶品で、ハリスの抑えたような歌いまわしの魅力が溢れている。同じパウエル派でも、ハンク・ジョーンズやトミー・フナガンのような人であれば、こういうミディアム・テンポの曲では、もうちょっとさわやかさのようなものが感じられるのだけれど、ハリスの演奏は、どことなく屈折した暗いハード・バップ特有のエネルギーを感じさせ、それが魅惑的で深いグルーヴを生み出している。ハリスのバラードは味わいが薄いと言われることがあるが、たしかにフラナガンのような繊細さはないが、このグルーヴをどう感じるかがハリスの歌心を感じられる境目になるのではないか。この後は、正統的ともいえるバップの演奏が続く。正統的だけれど、地味で渋い。「Lolita」はラテン・リズムのテーマから、アドリブに入ってアクセルが入るようにシングル・トーンで突っ走るところは手に汗を握る。ハリスの演奏はビートの表面をなぞったりビートの上に浮いているのではなく、自らをビートにしっかりはめこんでいると言える。ここでは、堅実なベースとツボを押さえた激しいドラミングとのコラボレーションによって、重いスイング感をつくり出している。さらに、ハリスはフレーズの最初のビートを不意を突いたように激しく叩いているが、しだいにその音量は弱まっていく。これを“聴いているとフレーズが吹き飛ばされていくようだ”と評した人もいるが、こうしたすべての要素が“味わいながら演奏する”というハリスの演奏を形作っていると思う。それが、この曲だけでなく、とくにアップ・テンポの演奏に顕著に認められる。 Preminado 1960年12月21日、1961年1月19日録音 Preminado There's
No One But You Play,
Carol, Play What Is This Thing Called Love Joe
Benjamin (b) Elvin
Jones (ds) Barry
Harris (p) スタンダードとオリジナルを組み合わせて吹きこんだピアノ・トリオ・アルバム。歯切れがいいタッチと明解なフレージングに絶好調ぶりがうかがわれる。バド・パウエルの影響を受けたパウエル派の代表的な人で、終生そのスタイルを貫いたのも珍しい。このアルバムでもパウエルが取り上げた曲も演奏している。例えば、「I Should
Care」では、パウエルが用いたコードをわざと倣うようにして、しかも、その上で独自のフレーズを弾いていて、単なるパウエルのフォロワーではなくて、オリジナリティをもったピアニストであることを示している。そこにハリス独特の歌心が認められる。最後の「What Is This Thing Called
Love(恋とは何でしょうか)」では、速いテンポでコロコロと転がるような指使いの歯切れのよいノリは、いかにもバド・パウエルの影響を受けた人らしいが、バド・パウエルのように、その快速フレーズを最後まで力ずくで押し通すことはしていない。パウエルのようなパワフルなスリルは、ここにはない。その代わりに、パウエルにはないとろけるようなムードがある。それは、フレーズの端々に散りばめられた抜けが独特の歌心となっているからだ。歌心などというと、軟弱にメロディを歌わせるために部分的に演奏を崩すなどと誤解されては困る。「It's The Talk Of The
Town」を聴いてもらいたい、失恋を歌った古いスタンダードナンバーだが、しっかりしたタッチでカッチリと弾かれるのだが、その朴訥として調子は、むしろしんみりとした味わいが深くなる。 Breakin' It Up 1958年7月31日録音 Ornithology Bluesy Passport Allen's
Alley Embraceable You SRO Stranger In Paradise Barry
Harris(p) William
Austin(b) Frank
Gant (ds) バリー・ハリスが28歳の時に作った初リーダー盤。彼の演奏の印象は地味で、自身のスタイルの根本となっているバド・パウエルのようなエキセントリックなところがない。それが、よく分かるのがこのアルバム。 最初の「All The Things
You
Are」は、ミディアムスローでシミジミとした情感の表現は、しかし決してダレることのないビートの強さがあって、何度聴いても飽ることがない。次の「Ornithology」や「Allen's
Alley」では、テンポがあがり、バックの気持ちよいブラシを感じながら、いかにもパウエルの影響を受けたピアニストといった演奏をしている。そこからは躍動感に満ちたプレイが飛び出してくる。それも力づくの勢いとは違う。ベーシストとドラムとの調和を保ちながら生み出されるスピード感。それが心地よい。パウエル派と呼ばれるピアニストは少なくない。中でもハリスは最高峰のひとりだということをみせつけるようだ。その出発点を、初々しく見事なまでに示してくれたのがこの作品である。 |