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第786条 株式の価格の決定
 

 

Ø 株式の価格の決定等(786条)

@株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と消滅株式会社等(吸収合併をする場合における効力発生日後にあっては、吸収合併存続会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、消滅株式会社等は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。

A株式の価格の決定について、効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主又は消滅株式会社等は、その 期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。

B前条第七項の規定にかかわらず、前項に規定する場合において、効力発生日から60日以内に同項の申立てがないときは、その期間の満了後は、株主は、いつでも、株式買取請求を撤回することができる。

C消滅株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の法定利率による利息をも支払わなければならない。

D消滅株式会社等は、株式の価格の決定があるまでは、株主に対し、当該消滅株式会社等が公正な価格と認める額を支払うことができる。

E株式買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日に、その効力を生ずる。

F株券発行会社は、株券が発行されている株式について株式買取請求があったときは、株券と引換えに、その株式買取請求に係る株式の代金を支払わなければならない。

 

786条は、吸収合併等をする場合に、反対株主から消滅会社等に対して株式買取請求がなされた場合の株式買取請求がなされた場合の株式買取価格の決定手続ならびに買取価格および利息の支払い等について規定する。

ü 株式の買取価格の協議と支払期間(786条1項)

株式の買取価格の決定について、会社法は、直接、裁判所による価格決定の申立てを行うのではなく、まず、当事者間で協議を行うことを予定している。裁判所による公正な価格の決定には困難が伴い、鑑定費用等も高額になることが予想されるため、できるだけ当事者間の協議により価格決定することが望ましいという趣旨である。

当事者間の協議は、会社と買取請求をした株主と個別に協議するという原則のため、理屈の上では、合併に反対する理由も考慮して各株主について個別の公正な価格があり得ることになる(これが実務上あり得るかは、別のこと)。なお、ひとつの会社の買取価格の決定に関する申立てが複数提起された場合でも、それらの裁判は併合されません。

実際に買取請求がなされた場合、会社としてどのような価格を提案するかについてですが、この点については、公正な価格事態に明瞭な基準がないのと同様に、提案すべき価格についても明確な基準はありません。実際には、合併発表後の株価の変動や買取請求にかかる株式の取得時点むなどを勘案しながら、株主との間の交渉の見通しなども踏まえて、会社として考える一応の公正な価格を提案することとなるでしょう。また、買取請求をした株主間の取扱いの公平性にも留意が必要です。なお、株式買取請求による買取りによって会社の財産が流出することとなることから、買取請求権を行使していない株主に対しても合理的な説明ができる価格である必要があるでしょう。

消滅会社の場合、協議当事者は株主と消滅会社ですが、吸収合併の場合において、効力発生日後には、吸収合併存続会社が消滅会社に代わって当事者となります(786条1項括弧書)。裁判所に対する価格申立て等の手続きも同様です。

当事者間に協議が調ったときは、会社は効力発生日から60日以内に支払いをしなければなりません(786条1項)。60日の期間は、会社の資金調達の便宜に配慮したものであり、この日を経過するときは、遅延利息の支払いが問題となります。

ü 裁判所に対する価格決定の申立て(786条2項)

買取価格に関する株主と会社の協議が効力発生日から30日以内に調わなかった場合、その30日の期間満了後30日以内に、株主または消滅会社は、裁判所に価格決定の申立てをすることができます(786条2項)。株式買取請求権の濫用的行使に対処するため、会社にも価格決定の申立て権限が認められています。さらに、会社に申立権限を認めることには、紛争の統一的解決とコストの節約や裁判費用の合理的分担といったメリットも認められます。

この期間内に株主も会社も価格決定の申立てをせず、かつ、株主が株式買取請求を撤回しなかった場合の取扱いは必ずしも明らかではありませんが、株主による株式買取請求は失効せずに存続している以上、会社としては、誠実に買取に関する交渉に応じる義務は残っています。

なお、裁判所に買取価格決定の申立てをした後、実際に決定が出されるまでの期間は、個別の案件ごとに異なるものの、1年前後かかるとされています。この間に買取価格に発生する利息の額は少なくないものとなりますが、たとえば、買取価格のうち、買取請求をしている株主と会社の間で合意している金額分の利息分のみあらかじめ支払うことで、最終的に支払うべき利息の金額を抑えるという方策もあり得ます。

ü 株式買取請求の撤回(786条3項)

株式買取請求をした株主は、消滅会社等の承諾を得ないかぎり、その株式買取請求を撤回することはできません(786条4項)が、効力発生日から30日以内に協議が調わない場合、効力発生日から60日以内に価格決定の申立てがされないときは、その期間満了後、株主はいつでも、株主買取請求を撤回することができます(786条3項)。

ü 利息の支払い(786条4項)

消滅会社等は、裁判所が価格を決定した場合には、裁判所が決定した買取対象株式の代金支払債務について、効力発生日から60日間の期間満了後、年率6%の利率により算定した利息を支払わなければなりません(786条4項)。

・利息の法的性質、起算日および利率

この場合の利息の法的性質は、従来は買取代金債務の遅滞として遅延利息と解されてきました。これは、債務者である消滅会社等の帰責性を問わず、弁済期(履行期限)の経過により自動的に発生する年率6%の法定利息と解されているようです。

会社法は、効力発生日から60日経過後に支払うべき利息の利率について、会社を買主とする売買であるという従来の見解に基づいて、商事利率の年率6%であることを明文化したと考えられます。

吸収合併と株式交換での消滅会社等の株主の株式買取請求の場合、組織再編の効力発生日に株式買取の効力を生ずる(786条5項)。従って、その日に、買取請求の対象株式は消滅会社等に移転し、反対株主の権利は買取代金債権に変わることになります。買取請求をした株主は株主としての地位を喪失することからもはや剰余金の配当等を受ける資格がなくなる一方、買取代金債務の利息は、効力発生日から60日経過後に発生するにすぎません。効力発生日から60日間は、剰余金配当請求権等もなければ法定利息の請求もできないからです。

・法的期間経過後の裁判外の合意と利率・利息の支払

株式の買取価格について60日経過後に裁判外で合意に至った場合、786条4項は適用されず、具体的な買取価格に関する協議内容に従うとする考え方が主流のようです。

ü 株式買取請求の効力の発生(786条5項)

吸収合併または株式交換における株式買取請求の株式の買取は、効力発生日にその効力を生ずる(786条5項)。

消滅会社の株主による株式買取請求の株式買取の効力発生を、代金の支払い時ではなく効力発生日としているのは、合併の効力発生により、株式買取請求をしている消滅会社の株式に対して、存続会社の株式の割当てがなされない旨を明らかにするという趣旨です。つまり、消滅会社の株主が株式買取請求をした場合、効力発生日に株式買取請求による買取の効力が発生することにより、その株式は消滅会社の自己株式となり、さらに合併の効力発生により、消滅会社とともにその株式も消滅することになります。消滅会社の株主による株式買取請求が効力発生日後に撤回された場合には、本来であれば消滅会社が原状回復義務を負うことになりますが、消滅会社は効力発生日には解散しており、消滅会社の株式を変換することは不可能であるから、消滅会社の義務を承継した存続会社が株式買取請求権の対象である消滅会社の株式の代金相当額の金銭を変換する義務を負うことになります。

・反対株主の株式買取請求にともなう課税

株式買取請求権の行使による株式の買取は、自己株式の買取に当たるので、みなし配当課税の対象となるはずです。しかし、消滅会社の株主による株式買取請求権の行使に基づく買取は、みなし配当の発生事由から除外されているため(所得税令61条1項8号)、株式買取請求権を行使した消滅会社の株主は、買取の対価として交付される金額と買取対象の株式の帳簿価額の差額について、譲渡損益として課税されることになります。

ü 代金の支払い(786条6項)

買取価格の支払いは、株券が発行されている場合は、株券と引き換えに代金を支払わなければなりません(786条6項)。

・財源規制等

合併の際の株式買取請求による自己株式の取得については、分配可能額による財源規制はありません。また、分配可能額を超えて自己株式を取得した取締役等業務執行者の補填義務もありません。しかしながら、合併の際の株時買取請求の自己株式については無制限に取得することが認められているということではなく、会社は合併を中止できるよう、あらかじめ合併契約にのなかで手当てしておくこと考えられます。実務上は、合併契約に規定する契約解除事由に一定数の株式買取請求がなされたことを規定する例は少なく、実際にこのような事態が生じた場合は、合併契約上の合併の実行に重大な支障となる事態が発生したものとして相手方と協議の上解除することが多いと考えられます。

 

計算書類等の監査等(436条)    

計算書

 

 
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