吸収合併消滅会社、吸収分割株式会社、株式交換完全子会社は、@株主に対して、株主総会において合併契約等を承認するか否か、株式買取請求権を行使するか否か、合併無効の訴え等を提起するか否か、またA会社債権者に対して、合併等に対して異議を述べるか否か、合併無効の訴え等を提起するか否かの各判断に必要な情報を提供するために、合併等の効力発生前の一定の日から一定の事項を記載(記録)した書面(電磁的記録)を本店に備え置き、株主・債権者からの閲覧等の請求に応えなければなりません(782条)。
このように、事前備置は株主のみならず債権者のためでもあることから、原則として全株主の同意があったとしても備置すべき事項の省略や備置の短縮をすることはできないとされています。ただし、例外的に、吸収合併消滅会社による合併対価について参考となるべき事項の備置書類については、消滅会社の総株主の同意を得た場合には、その全部または一部を省略することが認められています。
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事前備置書類の内容
吸収合併消滅会社等は、吸収合併契約等備置開始日から効力発生日後6ケ月を経過する日までの間、782条1項1〜3号に定めるものの内容その他法務省令(会社法施行規則182〜184条)で定める事項を記載(記録)した書面(電磁的記録)を本店に備え置かなければなりません(782条1項)。
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吸収合併消滅会社の事前備置書類の内容
・吸収合併契約の内容(782条1項1号)
吸収合併消滅会社は、吸収合併契約の内容を記載(記録)した書面(電磁的記録)を備え置かなければなりません(782条1項1号)。このように吸収合併契約の「内容」を記載すべきものと規定されているので、実務では、実際に締結した吸収合併契約書の写しを備置していることが多い。
・合併対価の相当性に関する事項(会社法施行規則182条1項1号、3項)
合併対価とは、存続会社が吸収合併に際して消滅会社の株主に対して、その保有する消滅会社の株式に代えて交付する金銭その他の財産を意味します。吸収合併消滅会社の事前備置書類には、「合併対価の相当性に関する事項」を記載しなければなりません(会社法施行規則182条1項1号)。
合併対価が存続会社の株式である場合、株式そのものに関する事項の相当性に加えて、存続会社の資本金および準備金に関する事項の相当性についての記載(記録)も必要とされています(749条1項、会社法施行規則182条3項)。合併対価が存続会社の株式である場合の合併後の存続会社の株主資本等の額は、会社計算規則及び会計慣行に従って定められますが、この額をどのように資本金、資本準備金およびその他資本剰余金等に振り分けるかについては、一定の裁量が認められているため、ここでのその振り分けの理由を記載することになります。実際には、「機動的な資本政策の実現のため」とか、「当社の資本政策に鑑みて」といった記載がされることが多いようです。
会社法では、吸収合併消滅会社については、合併対価の相当性に関する事項として、とくに次の事項を記載すべき旨の規定をしています(会社法施行規則182条3項)。
@)合併対価の相当性に関する事項(会社法施行規則182条3項1号)
合併対価の柔軟化の結果、吸収合併存続会社からの吸収合併消滅会社の株主に対して交付される合併対価には、さまざまなものがあり得ますが、それらの合併対価の性質に応じて、その総数または総額が吸収合併消滅会社の企業価値に見合ったものであるか否かに関する説明です。具体的には、合併対価の総数・総額決定に際して当事会社が合併対価や企業価値を算定するために採用した方法(第三者機関への算定の依頼など)、算定方法(DCF法、類似会社比較法、市場株価平均法など)や算定結果その他合併対価の総額・総数の決定に際して考慮された事情(例えば、直前に当事会社の公開買付が行われた場合に合併対価をその公開買付価格と同額にしたときには、その公開買付が行われたことなど)や、価格決定の経緯などがあげられます。
A)合併対価として当該種類の財産を選択した理由(会社法施行規則182条3項2号)
合併対価の柔軟化との関係で、合併対価としてその財産の種類を選択した理由を開示しなければならなくなりました。記載すべき事項としては、実際に選択した合併対価の種類や背景事情によって異なるものの、合併対価の交付を受ける消滅会社株主への配慮(上場会社株式や現金などの流動性の高い財産を選択した場合には投下資本回収の機会の確保、存続会社株式を選択した場合にはシナジーの配分など)、存続会社の資本政策(合併対価として新株を発行するか、自己株式を使うか、または現金で処理するか等の判断に際しての考慮要素となります)、存続会社の経営方針(たとえば、合併対価として存続会社の株式以外の財産を割り当てることの理由として、機動的な意思決定を可能にすることなど)などがあげられます。
なお、すべての合併対価について積極的な理由の記載が必要かと言えば、吸収合併において消滅会社の株主が存続会社の普通株式の交付を受けることは、長い年月にわたって一般に受け入れられてきたことであること、および、存続会社が普通株式を交付すること自体は消滅会社および存続会社の債権者に不利益をもたらすことにはならないことなどから、合併対価として存続会社の普通株式を選択した場合には、それを選択したことについての積極的な記載まではしなくていいと一般に解されています。
B)存続会社と消滅会社とが共通支配下関係にある場合に消滅会社の株主の利益を害さないように留意した事項(会社法施行規則182条3項3号)
吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社とが共通支配関係にある、つまり企業グループ内の合併においては、吸収合併消滅会社の株主の利害を害さないように留意した事項を記載します。該当事項がない場合は。その旨を記載します。企業グループ内での合併では、吸収合併消滅会社の株主よりも企業グループ自体の利益を優先することや、多数派主導による不当な条件の合併が行われるのを防止するための対策として規定されたものであり、具体的には、少数株主との利益相反を回避するためにとった手当てを開示するとされています。実際には、相当な合併対価の総数・総額の決定のための各当事会社の企業価値を算定する際に、第三者機関への算定の依頼に加えて、利害関係を有する取締役等を検討や決議から除外したことや社外取締役の審議への参加などが記載される。
C)その他(会社法施行規則182条3項)
合併対価の相当性に関する事項には、会社法施行規則182条3項1〜3号に掲げる事項のほか、その他749条1項2、3号に掲げる事項または751条1項2〜4号に掲げる事項についての定めの相当性関する事項が含まれます。したがって、吸収合併消滅会社が種類株式発行会社である場合には、各種類株式の株主への割当比率の相当性に関する事項を記載しなければなりません。
・合併対価について参考となるべき事項(会社法施行規則182条1項2号、4項)

合併対価について参考となるべき事項は、吸収合併消滅会社の備置書類のみの記載事項であり、吸収合併存続会社の事前備置書類には記載の必要はありません。吸収合併消滅会社には、その株主が交付を受ける合併対価の内容・価値を的確に把握することができるように、合併対価の種類ごとに一定の事項の記載が必要とされています。なお、金銭が対価であるときは、これらの事項の記載の必要はありません。
この合併対価について参考となるべき事項については、他の記載事項とは異なり、吸収合併消滅会社の総株主の同意があった場合には、その全部または一部の記載または記録を省略することができます(会社法施行規則182条4項括弧書)。
@)合併対価の全部または一部が吸収合併存続会社の株式または持分である場合(会社法施行規則182条4項1号)
a)吸収合併存続会社の定款の定め(会社法施行規則182条4項1号イ)
合併の結果、吸収合併消滅会社の株主が吸収合併存続会社の株主、社員等になることから、存続会社の組織、運営等に関する基本的な規範である定款の全文を記載することが必要となります。
b)合併対価の換価の方法に関する事項(会社法施行規則182条4項1号ロ)
合併対価の柔軟化により、特殊な有価証券、外国会社の株式や社債等流動性・換価性が低いものが対価として交付されることを防ぐために、合併対価の換価の方法に関する事項の記載が必要とされています。具体的な開示事項として、次の3点が例示されています。
@合併対価を取引する市場
金融商品取引所その他の取引所等の具体的名称(例えば東京証券取引所スタンダード市場など)を記載します。
A合併対価の取引の媒介・取次または代理を行う者
合併対価を取り扱う証券会社その他の業者に関する情報について、吸収合併消滅会社の株主が業者に容易にアクセスすることができる情報を記載しなければなりません。具体的には、国内の証券会社のすべてが合併対価となる株式等を取り扱っている場合には、その旨を記載すれば足りる。しかし、一部の証券会社のみが取り扱う場合には、その会社の社名だけでなく、住所・電話番号などの具体的なアクセス方法まで記載する。
B合併対価の譲渡その他の処分に制限があるときはその内容、および、その他の事項
合併対価を処分する際に何らかの制限を受ける場合、その制限の内容を記載しなければならないとされています。典型的なものとしては、定款による株式の譲渡制限です。
c)合併対価に市場価格があるときは、その価格に関する事項(会社法施行規則182条4項1号ハ)
この記載事項は、次の二つの目的のために必要とされています。
@吸収合併消滅会社の株主に対して合併対価の相当性に関する判断資料を提供すること
備置の開始日までの市場価格の状況を記載すべきこととなりますが、市場価格は常に変動するので、適切に選択された一定期間の市場価格の平均または変動状況を記載するようです。
A吸収合併消滅会社の株主に対して合併対価の交付を受けた後に株主が市場価格を把握するための手段を提供すること
合併対価の市場価格の動向が掲載されているウェブページのURLを記載するなど。
d)吸収合併存続会社の過去5年間にその末日が到来した各事業年度に係る貸借対照表の内容(会社法施行規則182条4項1号ニ)
合併対価の吸収合併存続会社の株式・持分の価値を算定する資料として重要な記載事項です。吸収合併存続会社の過去5年間に末日到来した各事業年度の貸借対照表の内容の記載が求められています。ただし、@最終事業年度、Aある事業年度の貸借対照表の内容を法令に基づいた公告をしている事業年度、Bある事業年度の貸借対照表の内容を有価証券報告書で内閣総理大臣に報告している事業年度、の貸借対照表は記載する必要はありません。
A)合併対価の全部または一部が吸収合併存続会社以外の法人等の株式・持分その他これに準ずるものである場合(会社法施行規則182条4項2号)
a)当該法人の定款その他これに相当するもの定め(会社法施行規則182条4項2号イ)
合併の結果、吸収合併消滅会社の株主が吸収合併存続会社以外の法人等の株主、社員等になることから、法人等の組織、運営等に関する基本的な規範である定款あるいは定款に相当する定めの全文を記載することが必要となります。
b)当該法人等が会社でないときは、次に掲げる権利に相当する権利その他の合併対価に係る権利の内容(会社法施行規則182条4項2号ロ)
合併対価の全部または一部が、会社法上の会社(株式会社、合名会社、合資会社または合同会社)以外の法人等の株式、持分その他のこれらに準ずるものである場合、合併対価に係る内容の開示が必要とされています。具体的なものとして次のものが定められています。
@剰余金の配当を受ける権利
A残余財産の分売を受ける権利
B株主総会における議決権
C合併その他の行為が為される場合において、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求する権利
D定款その他の資料の閲覧または謄写を請求する権利
c)当該法人等がその株主、社員その他これに相当する者に対し、日本語以外の言語を使用して情報の提供をすることとされているときは、当該言語(会社法施行規則182条4項2号ハ)
吸収合併存続会社以外の法人等が、その株主等に対して日本語以外の言語を使用して情報の提供をすることとされている場合、その言語が何かを知ることは吸収合併消滅会社の株主の保護の役だつこととなるので、記載が求められます。
d)吸収合併が効力を生ずる日に当該法人等の株主総会その他これに相当するものの開催があるものとした場合における当該法人等の株主等が有すると見込まれる議決権その他これに相当する権利の総数(会社法施行規則182条4項2号ニ)
吸収合併の効力発生日に吸収合併存続会社以外の法人等の株主総会等が開催されると仮定した場合の議決権の総数を記載することとなります。これは、吸収合併消滅会社の株主に合併の効力発生後の自己の議決権割合を把握することを可能とするためのものです。
なお、吸収合併消滅会社の個々の株主が取得する議決権数は、合併対価の総数・割当てに関する事項、定款の定めなどにより知ることができるので、独立の記載事項とはなっていません。
e)当該法人等について登記がされていないときは、次に掲げる事項(会社法施行規則182条4項2号ホ)
吸収合併存続会社以外の法人等についての登記がされていないときは、@法人等を代表する者の氏名または名称および住所、A法人等の役員の氏名または名称を記載しなければなりません。
f)当該法人等の最終事業年度に係る計算書類その他これに相当するものの内容(会社法施行規則182条4項2号ヘ)
吸収合併存続会社以外の法人等の最終事業年度の計算書類として、以下のものの記載が必要とされています。
@最終事業年度に係る計算書類またはこれに相当するものの内容
A上記についての監査役、監査委員会、監査等委員会、会計監査人その他これに相当するものの内容の概要
なお、吸収合併存続会社以外の法人等の株式等を合併対価としている場合は、法人等の最終事業年度末日以降の臨時計算書類や後発事象そのものは記載事項とはなりません(吸収合併存続会社の株式等の場合は、相手方当事会社に関する事項として記載対象となっています)。
g)当該法人等の最終事業年度に係る事業報告その他これに相当するものの内容(会社法施行規則182条4項2号ト)
吸収合併存続会社以外の法人等が株式会社である場合には、法人等の最終事業年度に係る事業報告の内容、法人等が株式会社以外の者である場合には、法人等の最終事業年度に係る会社法施行規則118条各号および119条の各号に掲げる事項に相当する事項の内容を記載しなければなりません。
会社法施行規則118条および119条に規定する事項は次のとおりです。
@当該法人等の状況に関するその他の事項(計算書類およびその附属明細書ならびに連結計算書類の内容となる事項を除く。会社法施行規則118条1項)
Aいわゆる内部統制システムの整備についての決定等に関する事項(会社法施行規則118条2号)
B当該法人が公開会社である場合には次の事項
⑴当該法人の現況に関する事項(会社法施行規則119条1号)
⑵当該法人の会社役員に関する事項(会社法施行規則119条2号)
⑶当該法人の株式に関する事項(会社法施行規則119条3号)
⑷当該法人の新株予約権に関する事項(会社法施行規則119条4号)
h)当該法人等の過去5年間にその末日が到来した各事業年度に係る貸借対照表その他これに相当するものの内容(会社法施行規則182条4項2号チ)
合併対価の吸収合併存続会社以外の法人等の株式・持分の価値を算定する資料として重要な記載事項です。吸収合併存続会社の過去5年間に末日到来した各事業年度の貸借対照表の内容の記載が求められています。ただし、@最終事業年度、Aある事業年度の貸借対照表の内容を法令に基づいた公告をしている事業年度、Bある事業年度の貸借対照表の内容を有価証券報告書で内閣総理大臣に報告している事業年度、の貸借対照表は記載する必要はありません。
i)会社法施行規則182条4項1号ロハに掲げる事項(会社法施行規則182条4項2号リ)
合併対価である吸収合併存続会社以外の法人等の株式・持分その他これらに準ずるものの@換価の方法に関する事項(会社法施行規則182条4項1号ロ)及びAそれに市場価格があるときは、その価格に関する事項(会社法施行規則182条4項1号ハ)。
j)合併対価が自己株式の取得、持分の払戻しその他これらの相当する方法により払戻しを受けることができるものであるときは、その手続きに関する事項(会社法施行規則182条4項2号ヌ)
合併対価が吸収合併存続会社以外の法人等から払戻しを受ける形で換価できる場合は、その手続きの記載が必要です。
B)合併対価の全部または一部が吸収合併存続会社の社債・新株予約権・新株予約権付社債である場合(会社法施行規則182条4項3号)
@合併対価の換価の方法に関する事項、A合併対価に市場価格があるときは、その価格に関する事項、B吸収合併存続会社の過去5年間に末日が到来した各事業年度に係る貸借対照表の内容を記載しなければなりません。
C)合併対価の全部または一部が吸収合併存続会社以外の法人等の社債・新株予約権・新株予約権付社債その他これに準じるものである場合(会社法施行規則182条4項4号)
@合併対価の換価の方法に関する事項、A合併対価に市場価格があるときは、その価格に関する事項、B法人等について登記がされていないときは、法人等を代表する者の氏名または名称および住所、法人等の役員の氏名または名称、C法人等の最終事業年度に係る計算書類その他これに相当するものの内容、D法人等の最終事業年度に係る事業報告その他これに相当するものの内容、E法人等の過去5年間に末日が到来した各事業年度に係る貸借対照表その他これに相当するものの内容を記載しなければなりません。
D)合併対価の全部または一部が吸収合併存続会社以外の法人等の株式・持分・社債・新株予約権・新株予約権付社債その他これに準じるものおよび金銭以外である場合(会社法施行規則182条4項4号)
合併対価が、日本の国債・地方債、外国政府が発行した公債、貴金属、不動産、不動産の権利、施設利用権、債権。知的財産権、各種動産などである場合には、@合併対価の換価の方法に関する事項、A合併対価に市場価格があるときは、その価格に関する事項を記載しなければならない。
なお、合併対価が金銭である場合には、合併対価について参考となるべき事項に関して記載事項は特定されていません。
・吸収合併に係る新株予約権の定めの相当性に関する事項(会社法施行規則182条1項3号、5項)
吸収合併消滅会社が新株予約権を発行している場合に、吸収合併存続会社が吸収合併に際して、その新株予約権の新株予約権者に対して交付する新株予約権または金銭についての定めの相当性に関する事項を記載しなければなりません。
新株予約権者は株主とは異なり、株主平等の原則のようなルールは存在しないので、法律上は、理論的には、個々の新株予約権者ごとに異なる割合や額の新株予約権や金銭を割り当てることも可能ということになりますが、その場合には、その相当性にかかる事項として理由の説明が必要になってくると考えられます。
また、吸収合併存続会社で新株予約権者に対して交付する新株予約権や金銭がゼロの場合には、その旨の記載は不要(会社法施行規則191条2号)とされています。その他、この件に関する事項の記載については、合併対価の相当性に関する事項に準じることとなります。
具体的には、次の各場合で記載事項が違います。
@)吸収合併存続会社が株式会社である場合(会社法施行規則182条5項1号)
吸収合併存続会社が株式会社である場合には、吸収合併消滅会社の新株予約権者に対して存続会社の新株予約権または金銭のいずれかが交付されることになるので、749条1項4、5号の事項についての相当性に関する事項、すなわち、@新株予約権者に対して交付する新株予約権の内容・数または金銭の額およびその割当てについての相当性に関する事項、A新株予約権者に対して交付する財産を新株予約権または金銭と定めたことについての相当性に関する事項、B存続会社と消滅会社とが同じグループに属しているときは、消滅会社の新株予約権者の利益を害さないように留意した事項、を記載することとなります。
A)吸収合併存続会社が持分会社である場合(会社法施行規則182条5項2号)
吸収合併存続会社が持分会社である場合には、吸収合併消滅会社の新株予約権者に対して、新株予約権に代わる金銭が交付されることから、751条1項5、6号の事項の相当性に関する事項、すなわち、@金銭の額およびその割当てについての相当性に関する事項、A存続会社と消滅会社とが同じグループにあるときは、消滅会社の新株予約権者の利益を害さないように留意した事項を記載することとなります。
・計算書類等に関する事項(会社法施行規則182条1項4号、6項)
計算書類等関する事項とは、吸収合併存続会社および吸収合併消滅会社のそれぞれに関する次の事項です。
@)吸収合併存続会社に関する事項(会社法施行規則182条6項1号)
a)最終事業年度に係る計算書類等の内容(会社法施行規則182条6項1号イ)
計算書類等の内容としては、計算書類である貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、そして事業報告、監査報告および会計監査報告ということになる。
b)最終事業年度の末日後の日を臨時決算日とする臨時計算書類等があるときは、当該臨時計算書類の内容(会社法施行規則182条6項1号ロ)
吸収合併存続会社が最終事業年度の末日後に臨時計算書類等を作成している場合、その記載は、吸収合併消滅会社の株主・債権者にとって有利であり、かつ、その開示は容易であることから、記載が求められます。
c)最終事業年度の末日後iに生じた会社財産の状況に重要な影響を与える事情(会社法施行規則182条6項1号ハ)
最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象を生じたときは、その内容の開示が要求されるので、最終事業年度の末日後に生じた合併比率等に影響を与え得る事象の記載が求められています。
A)吸収合併消滅会社に関する事項(会社法施行規則182条6項2号)
a)最終事業年度の末日後iに生じた会社財産の状況に重要な影響を与える事情(会社法施行規則182条6項2号イ)
吸収合併消滅会社について、吸収合併存続会社の場合と同じように、最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象を生じたときは、その内容の開示が要求されます。
b)吸収合併消滅会社において最終事業年度がないときは、吸収合併消滅会社の成立の日における貸借対照表(会社法施行規則182条6項2号ロ)
吸収合併消滅会社において最終事業年度がない時は、会社の成立の日の貸借対照表の記載が求められます。
・債務の履行の見込みに関する事項(会社法施行規則182条1項5号)
吸収合併が効力を生ずる日以後の吸収合併存続会社の債務の履行の見込みに関する事項を記載しなければなりません。
債務の履行の見込みについては、合併後の会社が債務超過になるかどうかという点に限らず、合併後の存続会社のキャッシュフロー等を勘案して判断されることになります。債務の履行の見込みがない場合には、その旨を記載すればよく、その記載さえあれば、債務の履行の見込みがないこと自体が合併の無効要因となることはないのですが、債務の履行の見込みのない合併をしようとした場合には債権者からの異議が殺到することが予想され、現実には、このような合併は難しいでしょう。また、実際に債務の履行の見込みがない合併をした場合、それで利益を害された債権者等から取締役に対して責任を追及される可能性はあります。
・吸収合併契約備置開始日後に開示事項に変更が生じた場合における開示事項の更新(会社法施行規則182条1項6号)
吸収合併契約等の備置開始日後にA)〜E)の事項に変更が生じたときは、変更後の事項を記載しなければなりません。例えば、最終事業年度に係る計算書類等が切り替わった場合には、最新の計算書類等の内容を記載しなければなりません。
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吸収分割株式会社の場合の事前備置書類の内容
なお、3社以上の会社が吸収分割する場合、会社法上は吸収分割の手続きは2社間で行われることとされているため、手続きとしては2社間の吸収分割手続が複数並行して進んで行くことになります。このとき、3社目に関する事項の事前開示をどこまで行うべきかが問題となります。例えば、承継会社A社に対して、X社を分割会社とする手続とY社を分割会社とする手続が並行して進んでいる場合、X社の事前開示事項として、A社とY社の間の手続に関する事項(分割対価等)やY社事態に関する事項(計算書類等)を開示する必要があるのかということです。この点について、条文には開示すべき旨の定めはありません。しかし、とくにA社とX社の吸収分割手続とA社とY社の吸収分割手続が一体となって行われるものである場合、事前開示の趣旨を考えると、X社でもA社とY社の吸収分割に関して、A社とX社との吸収分割の事前開示と同じ程度の開示は必要であるという考え方
・吸収分割契約の内容(782条1項1号)
吸収分割承継会社は、吸収分割契約の内容を記載(記録)した書面(電磁的記録)を備え置かなければなりません(782条1項1号)。このように吸収分割契約の「内容」を記載すべきものと規定されているので、実務では、実際に締結した吸収分割契約書の写しを備置していることが多い。
・吸収分割の対価の相当性等に関する事項(会社法施行規則183条1号)
吸収分割株式会社の事前備置書類には、吸収分割の対価の相当性に関する事項を記載しなければなりません。具体的には、@吸収分割の対価の総数または総額の相当性に関する事項、A吸収分割の対価としてその種類の財産を選択した理由、B吸収分割承継会社と吸収分割株式会社とが共通支配下関係にあるときは、吸収分割株式会社の少数株主の利益を害さないように留意した事項等を記載しなければなりません。
