新任担当者のための会社法実務講座 第757条 吸収分割契約の締結 |
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吸収分割契約の締結(757条) 会社(株式会社又は合同会社に限る。)は、吸収分割をすることができる。この場合においては、当該会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継する会社(以下この編において「吸収分割承継会社」という。)との間で、吸収分割契約を締結しなければならない。 会社分割は、会社が行っている事業の権利・義務を切り出して、これを他の会社に承継させるという取引です。会社分割を行う側の会社は株式会社または合名会社に限定されます(757条)が、権利・義務の承継の受け皿となる会社の種類の限定はありません。この会社分割の制度は平成12年の商法改正で導入され、その後の平成17年の会社法制定の際に引き継がれ、現在に至っています。 会社分割に類似の制度として合併や事業譲渡等があります。会社分割は、会社が行っているその事業に関する権利・義務が一括して、また原則として権利・義務の相手方の同意を必要とすることなく承継されるという点で合併と似た性質を持っています。しかし、合併が会社の権利・義務のすべてを一括して承継する取引であるのに対して、会社分割は会社の権利・義務の一部を対象としている点で大きな違いがあります。また、事業譲渡は会社分割とは機能的には類似した性質を持っていますが、事業譲渡は事業譲渡を行うための機関決定、株主総会の承認及び反対株主の株式買取請求手続等の関係で一部会社法の規制を受けるが、おおむね当事者間の合意する内容に委ねられているのに対して、会社分割は機関決定の側面だけでなく、その他の手続面でも会社法上の規制に従う必要がある点で違いがあります。 ü
会社分割の種類 ・吸収分割と新設分割 会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を既存の会社に承継させることを吸収分割と言います。これに対して、新設分割とは。会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を後者分割により設立する会社に承継させることを言います。吸収分割の場合に、会社分割を行う側の会社を吸収分割会社といい、会社分割により権利義務を承継する側の会社を吸収分割承継会社と言います。また、新設分割の場合に、会社分割を行う側の会社は新設分割会社と言い、会社分割により降ら多に設立され権利義務を承継する会社を新設分割設立会社といいます。新設分割とは、その手続きに基づき新会社が設立され、その会社に対して分割会社の権利義務を承継されるものであり、会社設立の手続と吸収分割さの手続が一体化したものです。したがって、新設分割においては、必ず、新設分割設立会社の株式が、分割会社に交付されることになります。 ・物的分割と人的分割 分割会社に対して承継会社または設立会社から分割対価が交付される形態を物的分割といい、分割会社の株主または社員に対して承継会社または設立会社から分割対価が交付される形態を人的分割と言います。この区別は、旧商法下ではありましたが、平成17年の会社法制定により物的分割に一本化されました。しかし、会社法のもとであっても、分割会社がその対価として取得する、会社分割により権利義務を承継する承継会社または設立会社の株式を直ちに剰余金の分配として株主に交付することにより実質的な人鉄分割と同様の効果を生ずることは可能です。アメリカではスピン・オフと呼ばれている事業再編の携帯です。 ・単独分割と共同分割 分割会社が1社である場合を単独分割と言い、2以上の会社が共同して行う会社分割を共同分割と言います。複数の会社が、1社の承継会社に対して吸収分割することを共同吸収分割、1社を新設分割する場合を共同新設分割といいます。共同新設分割は会社法に明文の規定がありますが、共同吸収分割の規定はありません。しかし、複数の分割会社が1つの承継会社との間で吸収分割契約する場合には、各分割会社が承継会社との間で個別に吸収分割することで、実質的に共同吸収分割が可能となります。 ・三角分割 株式会社が吸収分割を行う場合、その対価を承継会社の親会社の株式とすることも可能である。このような会社分割を三角分割といいます。子会社による親会社株式の取得は原則として禁止されていますが、子会社が三角分割を行うために親会社株式を取得する場合について。子会社による親会社株式の取得・保有規制の例外規定が置かれています。すなわち、吸収分割における承継会社は、分割会社に交付する承継会社の親会社株式の総数を超えない範囲内で所得することができ、会社分割の効力発生日までの間、吸収分割を中止した場合を除き、親会社株式を保有し続けることができます。 ü
会社分割が用いられる局面 ・M&A 会社分割は、M&A取引においてきわめて頻繁に用いられ、今日では必須のツールとなっています。M&Aで用いられる他の手法、例えば株式譲渡、合併、株式交換では、どれも会社の事業と資産・負債のすべてを対象としているために、買い手側から見た場合、リスクが大きい部分あるいは魅力のない部分を除外することができません。これに対して、会社分割の場合には、その対象を限定できるためニーズに柔軟に対できるのです。 また、会社分割をM&Aで用いる場合、①買い手あるいは買い手が設立した受け皿会社が会社分割により対象事業を承継する直接的な方法に加えて、②売り手が対象事業を会社分割により分離した上で、会社分割により対象事業を承継した会社の株式を譲渡する方法が用いられることが多いようです。さらに、③合弁事業を組成することもあります。 ・グループ内事業再編 会社分割は、グループ内事業再編においても頻繁に利用されています。主体となる親会社の傘下に多数の子会社が存在すね企業グループを想定すれば、その形態は、①親会社から一部の事業を切り出して子会社とするケース、②親会社から一部の事業を切り出して既存の子会社と統合するケース、③子会社の事業の一部を他の子会社に移管するケース、④複数の子会社からそれぞれの事業を切り出して新たに設立する子会社に統合するケース、など多種多様なものが可能となります。 ü
会社分割のための事前準備 ・会社分割の立案・策定 ⅰ)会社分割を立案するに際しての検討事項 ア.ストラクチャー 会社の事業の一部または全部を他の会社に移転・継承させる手続きとして会社分割を選択した場合、その具体的なストラクチャーには、様々な選択肢があります。それは次のようなものです。 ①吸収分割か、新設分割か 対象となる事業を他の会社に譲渡する目的で会社分割を実施するのであれば、現金を対価とする吸収分割の方法によることが直接的な方法ですが、新設分割により対象となる事業を承継させたうえで設立会社の株式をすべて譲渡する方法により、対象となる事業を譲渡する方法も考えられます。この選択の際に一般的に検討すべき法律上の留意点として次のようなものが考えられます。 a.新設分割の場合に利用可能な対価の種類についての制限 新設分割の場合には、会社分割に際して株式を発行することが必要であり、株式数が会社分割計画の必要的記載事項となります。この点については、承継会社の株式の交付が必須ではない吸収分割との違いです。さらに、新設分割の場合は、事業を承継する新設会社が、その承継事業の対価として株式に加えて、社債、新株予約権、新株予約権付社債を交付することは認められていますが、これに以外の金銭等を対価とすることは認められていません。 b.許認可との関係 会社分割の対象となる事業に必要な許認可が会社分割の効力発生により承継会社または設立会社に承継されるか否かについては、各許認可の根拠法令によって決まっていて、承継会社または設立会社は対象となる事業に必要な許認可を新たに取得しなければならない場合が多いのです。また、許認可の取得の申請はすい゛に設立済みの法人であることを求められるのが一般的です。ところが、新設分割の場合は、設立会社の設立登記が行われた時点で効力が発生し設立会社が成立することになり、それまでに対象となる事業に必要な許認可を取得することはできません。このような事態を避けるため、あらかじめ受け皿となる会社を設立して会社分割の対象となる事業に必要な許認可の取得申請を事前に進め、新設分割ではなく、受け皿会社に対して吸収分割を行うのが一般的です。 c.その他の事項 新設分割の場合は、吸収分割とは異なり、設立会社の定款、取締役、監査役等、設立会社の組織に関する事項が新設分割計画の必要的記載事項とされており、新設分割の場合には設立会社に分割会社の自己株式を承継することはできません。また、吸収分割は、吸収分割契約に記載された効力発生日に効力を生じるのに対して新設分割は設立される会社の成立の日に効力を生じ、分割の対象となる事案の権利義務を承継します。 ②会社分割により割り当てられる対価をどうするか 会社分割では、新設分割の場合の一定の例外を除いて、承継会社または設立会社の株式以外の対価、例えば、金銭、社債、新株予約権その他を対価として用いることが可能です。対価の選択に関する法律上の留意点は次のとおりです。 a.税務上の適格性の検討 会社分割では承継会社もしくは承継会社の100%親会社の株式を会社分割の対価とすることが税務上の適格会社分割の要件とされています。したがって、それ以外の場合について税務上は適格会社分割となりません。 b.新設分割の場合の対価の利用の制限 新設分割の場合には、設立会社が、その株式に加えて、社債、新株予約権、新株予約権付社債を会社分割の対価として交付することは認められていますが、金銭その他の財産の交付は認められていません。 c.人的分割の場合の対価の利用の制限 人的分割(分割会社の株主・社員に対し承継会社または新設会社から対価が交付される場合)の場合に、分配可能額による剰余金の配当の規制を受けることなく、分割の効力発生日に剰余金の配当として分割会社の株主に対価を交付する場合には、承継会社または設立会社の株式以外の対価の割合が5%未満でなければなりません。 d.親会社株式 会社分割を吸収分割で行う場合、承継会社の親会社の株式を会社分割の対価として、分割会社に交付することも可能です。 e.無対価 吸収分割の場合は、無対価とすることは可能です。例えば、100%の資本関係にある親子会社間で吸収分割を行う場合です。 ③対価の割当を分割会社に対して行うのか、分割会社の株主に対して行うのか 対価の割当を分割会社の株主に対して行う場合、原則として分割会社の株主に交付できる対価は承継会社または設立会社の株式に限定されます。上場会社のような多数の株主が存在する会社が、対価を分割会社の株主に交付する形で会社分割するケースは少なく、このやり方は非上場の子会社の事業を対象とするグループ内の事業再編の際で利用される程度です。 a.人的分割における対価の制限 対価の割当を分割会社の株主に対して行う会社分割は、分割会社に対する分割の対価の交付と、剰余金の配当または全部取得条項付株式の取得の対価として、分割会社の株主への分割の対価という構成に整理されています。 承継会社もしくは承継会社の100%親会社の株式を会社分割の対価とすることが税務上の適格会社分割の要件とされていますしたがって、それ以外の場合について税務上は適格会社分割となりません。一方、これらの制限を超えて分割会社が株主に対して承継会社または設立会社の株式以外の対価を交付する場合でも、会社分割と剰余金の配当を組み合わせて行うことは可能です。ただし、この場合は通常の剰余金の配当等と同様の手続きを踏むことになり、分配可能額による配当規程を受けることになります。 b.人的分割における債権者保護手続き 物的分割の分割会社の債権者保護手続きの対象となる債権者は、分割会社に対してその無債務の履行を請求することができない債権者に限られますが、人的分割の場合は分割会社のすべての債権者となります(789条1項2号括弧書)。 これらの選択をする際には、法律上の留意点だけではなく、取引の目的を達成するために何が適切かを検討することが重要となります。会社分割を用いた取引の目的を大別すると次のとおりとなります。 ア.分割会社による事業譲渡目的での会社分割 取引の対象となる事業を承継会社に譲渡する目的で会社分割を行う場合です。この場合、分割対価は承継会社の株式ではなく承継会社の事業リスクを受けない金銭であることが一般的です。 イ.分割会社による承継会社のいわゆる「逆取得」目的での会社分割 取引の対象となる事業を承継会社に吸収分割により移転・承継させたうえで、その対価として承継会社の株式を取得して、承継会社の支配権を得るという場合です。 ウ.ジョイントベンチャーの組成目的での会社分割 複数の会社がショイントベンチャーを組成する手法としても会社分割を利用することができます。この場合には、ジョイントベンチャーの対象となる事業はジョイントベンチャーを組成するそれぞれの会社の事業の一部ということもあれば、その会社だけがジョイントベンチャーに拠出し他の会社には現金出資を行うというは場合もあり得る。」 エ.グループ内事業再編目的での会社分割 親会社の事業と子会社の事業あるいは複数の子会社の事業に重複する部分がある場合に、重複している部分を会社分割により統合して整理したり、また、特定の事業部門について会社分割を用いて分社化したりするなど、グループ内の事業再編に利用できる。 イ.対価の検討 会社分割では、吸収分割の場合の一定の例外を除いて、承継会社または設立会社の株式以外の対価、例えば、金銭、社債、新株予約権、債権その他の資産や権利についても対価として用いられることが可能です。以下で法律上の留意点をあげていきます。 ①税務上の適格性の検討か 設立会社または承継会社、承継会社100%親会社の株式を分割対価とすることが税務上の適格会社分割の要件の一つとされています。従って、これ以外の対価を選択する場合には税務上適格会社分割とはなりません。 ②新設分割の場合の利用の制限 新設分割の場合は、設立会社が、その株式に加えて、社債、新株予約権または新株予約権付社債を会社分割の対価として交付することは認められていますが、金銭その他の財産の交付は認められていません。 ③人的分割の場合の利用の制限 人的分割の場合に、分配可能額による剰余金の配当規制を受けることなく、分割の効力発生日において剰余金の配当として分割会社の株主に対して会社分割の対価を交付する場合は、承継会社または設立会社の株式以外の対価の割合が5%未満である必要があります。 ④親会社株式 会社分割を吸収分割で行う場合、承継会社の親会社の株式を会社分割の対価として交付することも可能です。会社法上、子会社による親会社株式の取得に関しては一定の規制が課されていますが、組織再編取引に際して親会社の株式を組織再編の対価として交付する場合には、その限度において子会社が親会社株式を取得することが可能とされており、吸収分割の場合もあてはまります。 ⑤無対価 吸収分割の場合は無対価とすることも会社法では可能です。例えば、100%の資本関係のある親子会社間あるいは100%親会社の支配下にある子会社・孫会社間で吸収分割を行う場合等は無対価で会社分割を行う場合が少なくありません。一方、新設分割の場合は、設立会社の設立時に株式を発行する必要があります。 ウ.その方の検討事項 ①共同分割 複数の会社がそれぞれ分割会社として新たに設立する会社に事業を移転・承継させる場合を共同新設分割といいます。各分割会社は共同で新設分割計画を作成する必要があります(762条)。新設分割を行う複数の会社のすべてで取締役会の承認を得て時点で、はじめて新設分割計画が作成されたこととなります。 また、複数の会社がそれぞれ既存の会社に事業を承継させる場合を共同吸収分割といいます。この場合、同じ会社を承継会社とする複数の吸収分割を並行して行う場合には、そのままであればどちらか一方だけについて効力が生じてしまうおそれがあり、それぞれの吸収分割契約において相互にその実行を停止条件とするといった契約上の手当てを行う必要があります。 ②株主総会その他分割の手続きにおける株主の関与の程度 上場会社のような株主数が多い会社では、株主総会の招集および開催して、その承認決議を経ることの手続き的負担が大きく、また、準備期間も長期にわたる。これらのことから、会社分割の行う場合には、株主総会決議の要否や株主買取請求権行使の可能性などについて慎重に検討しておく必要があります。 ③会計・政務上の検討 会社分割の具体的とストラクチャーや取引の具体的な事実関係により、資産の評価、のれんの計上の可否、繰越欠損金の取扱い、所得課税の有無について、会計・税務上の取扱いが変わってくる可能性があります。実際に会社分割のストラクチャーを検討する際には、どのような会計および税務上の差異があるかを把握することが重要です。 ④上場会社の実質的存続性 部活会社を非上場会社、承継会社を上場会社とする吸収分割を行った結果、上場会社である承継会社の実態に著しい変更が生じ実質的存続性が認められないような場合や、上場会社が会社分割によりその事業を他の会社に承継させることにより上場会社の実体がなくなり実質的存続性が認められないような場合がある点に留意しなければなりません。 ⅱ)会社分割のスケジュール 会社分割のために会社法で必要とされる手続きをすべて行うための最短期間は、会社分割契約・計画の締結・決定から会社分割の効力発生日までの約1ケ月です。しかし、実際には会社法上の手続き以外にも様々な実務上の課題の検討や準備作業が必要となり、相当長期間(数カ月、場合によっては1年)になることが一般的です。ここでは、上場会社同士の会社分割を利用した大規模な事業承継行う場合を例として、通常必要とされる段階は次のようになります。 ①秘密保持契約の締結 会社分割に関する取引について本格的な検討を始める前に、当事者間で会社分割に関する検討・交渉を行っている事実やその検討・交渉内容に関する秘密を保持することに加えて、会社分割の対象となる事業や、会社分割の対価として株式を発行する場合には、株式を発行する承継会社の事業等の情報等、一般には公開されていない情報を交換することになるため、これらの情報等について秘密を保持することを相互に合意しておく必要があります。」 ②第1次デュー・デリジェンスの実施/公正取引委員会への事前相談 秘密保持契約が締結されると、デュー・デリジェンスが始まります。もっとも、取引について公表される前の段階では、デュー・デリジェンスを受ける側がデュー・デリジェンスを行う側の要請に応じ必要な資料・情報を収集し質問に答えるために十分な体制を整備することが困難な場合が少なくありません。従って、通常は、大規模な取引の場合は、公表される前の段階では、十分なデュー・デリジェンスを完了させることが困難となります。 大規模な取引では、独占禁止法上の問題がないことが当初から明白であるケースは少なく、取引の公表前に公正取引委員会への事前相談の要否も含め、慎重に検討する必要があります。 ③基本合意書の締結 正式の会社分割合併契約の締結に至る前の段階では、会社分割に関する覚書または基本合意書といった文書が取り交わされる場合が少なくありません。この文書の記載内容については、このような文書を締結する目的、基本合意書締結のタイミング、会社分割の当事会社の属性によって大きく変わってきます。一般的には会社分割の検討や準備には多大な手間とコストがかかるため、会社分割に向けた本格的な検討や準備を開始する前に当事会社の相応のレベルで会社分割に向けた共通認識を書面の形で記録に留めたいという要請が働くことから、その要請を充たすことを目的として締結されることが多いと考えられます。 ④取引の公表 上場会社を当事者とする取引で、会社分割を実行することについて決定した場合は、金商法および金融商品取引所の規則に従い、その取引に関する事項を公表しなければなりません。基本合意書を締結する場合には、その締結の段階で公表することになります。 ⑤第2次デュー・デリジェンスの実施 基本合意書締結時までに本格的なデュー・デリジェンスが完了していることは稀であり、通常の場合、基本合意書締結後も最終契約の締結時までデュー・デリジェンスを行い、完了させることになります。 ⑥条件交渉/確定/最終契約の締結 基本合意書締結後は、その内容に基づき会社分割の取引その他の詳細な条件について最終交渉を行い、その内容を確定し、最終契約の締結へと向けて進むことになる。 ⑦株主・従業員・取引先等の関係者への説明 会社分割にかかる取引は、対象となる事業内容やその規模のいかんにより、対象となる事業に従事している従業員を含めた各当事者の従業員や、取引先等の関係者に大きな影響を与えることになります。会社分割の対象となる事業に従事している従業員については、その権利が不当に害されることを防ぐため、労働契約承継法において、従業員に対して行うべき説明の内容と時期や労働契約承継の手続きについて特別の定めがなされています。これらは最終契約が締結された時点で適用されます。実際には、取引公表の時点から必要に応じて適宜、前倒しで、従業員への説明会や労働組合との協議等を開始しています。 また、会社分割を実行するにあたっては、具体的なストラクチャーや当事者の規模、会社分割の対象となる事業の規模、対価の額等に応じて、株主総会での特別決議による承認を受ける必要があり、また反対株主による株主買取請求権の行使を避けるため、株主の理解を得る努力も必要となります。 ⑧競争法対応/許認可 会社分割による事業統合の結果、一定の取引分野で高い市場シェアを結うことになる等、明確に競争を実質的に制限するおそれがないと判断することが難しい場合、届出書のドラフトチェックを行う届け出前相談行う。 また、会社分割の当事者が国外でも事業を展開している場合海外事業法上問題となるかのチェック、その国でも問題とならないかのチェックと、必要な場合は事前折衝を行います。また、会社分割の当事者がいわゆる規制業種である場合には、国内外の規制当局との事前折衝が必要となります。 ・プロジェクトチームの組成および情報遮断の必要性 ⅰ)プロジェクトチームの組成 会社分割の実行は、当事会社の株主、従業員を含め、多くの関係者に重大な影響を与えることが多いため、合併についての取引が対外的に発表することができる段階までは、社内では、可能なかぎり少数の者のみから構成されるプロジェクトチームを組成し、情報管理を行うことになります。例えば、社長または担当の取締役をリーダーとして、当初は経営企画部や社長室といった部署の少数の担当者でメンバーを構成し、初期段階の検討を行います。その後の検討・準備が進むにつれて、財務部、法務部、人事部などの各主要部署から合併の担当者を選定し、適宜メンバーに加わることが一般的です。 そして、会社分割が公表された後は、基本的に機密性について考慮に入れる必要がなくなるため、公表とともに、各部署の担当者からなるプロジェクトチームを組成し、社内では合併の準備に当たるとともに、相手方当事会社のプロジェクトチームとともに準備委員会を組成し、合併の準備、検討を行なうことになることが多いようです。 プロジェクトチームには、社内の担当者だけでなく外部のアドバイザー(弁護士、フィナンシャル・アドバイザー、会計士、税理士その他)を利用することも少なくない。 ⅱ)情報遮断の必要性 ア.金融商品取引法上のインサイダー規制 金融商品取引法では、上場会社の運営、業務等に関して、投資家の投資判断に影響を及ぼすような重要な事実が公表される前に、その事実を知った一定の会社関係者等が、その上場会社の株式等の売買を行うことは禁止されています(金商法166条)。上場会社が会社分割の決定をした場合は、投資家の投資判断に影響を及ぼすような重要な決定事項となるため、インサイダー情報に該当します(金商法166条2項1号)。 会社分割は、上場会社の取締役会または社長等が合併の決定をした時点からインサイダー情報に該当します。 イ.独占禁止法上の情報遮断の必要性 会社分割の効力発生前に、合併の検討・準備の情報交換や統合準備作業によって、事業者間に競争を準備する暗黙の了解や共通の意思が形成されたり、またはこの情報交換が手段となって一定の取引分野での競争が実質的に制限されたりする場合には、独占禁止法で禁止されている不当な取引制限に該当する懸念があります。このような懸念を避けるために、統合交渉等のために必要な一定の情報交換を行う場合には、交換される情報の性質、範例、共有される人の範囲等、一定の情報管理の方策をとることが必要と考えられます。具体的には、統合交渉や実行準備のための情報交換の際に交換する情報の範囲を統合の交渉や実行の準備に必要な最小限のものに限定すること、検討・交渉を営業部門ではない部門に担当させること、相手方の具体的情報は担当部門のみがアクセスできるものとし、受領した情報については営業部門からは遮断する措置を講ずること、これらの方策を社内及び相手方においても周知徹底させること、などが考えられます。 ウ.個人情報保護法上の個人情報の第三者提供の許容性 会社分割当事会社が個人情報取扱事業者に該当する場合は、取引前に相互に情報を交換する場合には、交換する情報が個人情報を含む場合は、開示を差し控えるか、個人が特定できないような方法を検討することが必要です。 なお、個人情報保護法23条4項2号において、会社分割その他の事由による事業の形象に伴って個人データが提供される場合には提供を受ける者は提供が禁止される第三者には当たらないとされています。したがって、会社分割に伴って分割会社から承継会社に個人データが承継されることは問題がないということになります。 ・デュー・デリジェンスの実施 会社分割の取引の検討を行なうにあたって、会社分割当事会社は、取引を進めることについての重大な障害の有無、採用するストラクチャーの実施可能性の検討、対価の算定の基礎となる事業価値評価に反映させるべき事項の確認、取引の実行のために行うべき手続きの確認、取引実行後に事業を統合する場合にはその統合に向けて必要な作業の把握等の目的で、法務、会計、税務その他の観点からデュー・デリジェンスを行います。 また、日本の企業同士のM&A取引においてデュー・デリジェンスを実施するのが一般的となってきています。このようなM&A取引を実施するに当たって通常行われるデュー・デリジェンスを実施せずに取引を実行し、相手方会社の重大な問題や瑕疵を見逃したために、その結果として会社に損害が生じた場合には、担当取締役に善管注意義務違反の問題が生じる可能性があります。 ⅰ)デュー・デリジェンスの要否 会社分割を利用した取引は、具体的なストラクチャーに多くの選択肢がありうる取引であり、デュー・デリジェンスで留意すべき問題点は、そのストラクチャーに応じて異なってきます。ここでは、承継会社および分割会社のそれぞれに承継会社および分割会社のそれぞれにおいて、会社分割を利用して行われる典型的な取引を複数想定して、その際の留意点を検討します。 ①承継会社が行う対象事業に関するデュー・デリジェンス デュー・デリジェンス。の範囲や制度を検討する際には、一度会社分割を実行するとその効力を覆して現状を回復することが困難であることに留意しておく必要がある。 会社分割では、そのストラクチャーや会社分割契約の内容によっては、会社分割の対象となる事業に関して、簿外債務や、不法行為に基づく偶発債務等の潜在債務を承継することになる可能性があります。このように簿外債務や潜在債務を会社分割の対象となる事業とともに承継した場合の影響は直接的なものとなります。 ②承継会社が自社を対象とするデュー・デリジェンスの要否 会社分割により承継する事業と承継会社の既存の事業を統合することが想定それているような場合には事業統合により生ずる問題を検討しておく必要があります。もっとも、自社の事業であり、新たに大々的な情報収集を行う必要はないことが普通です。それにこの問題は、例えば、複合計画やクロスライセンス契約の問題は、承継する事業と自社の事業とを総合考慮して検討する必要があります。 ③分割会社が対価の内容に応じて行うべきデュー・デリジェンス 会社分割により分割会社が交付を受ける対価が承継会社の株式や新株予約権付社債である場合等は、対価の価値が、承継会社の事業価値に依存することになります。したがって、承継会社の事業価値を検証するためのデュー・デリジェンスの要否を検討する必要があります。この場合、対価としての受領する株式や新株予約権付社債等を発行している会社が上場会社であって会社分割実行後の分割会社の承継会社への持株比率が小さければ、主として市場株価と公開情報に依拠し、デュー・デリジェンスを簡略化すねことが少なくありません。 他方、会社分割の対価として、分割会社が承継会社の株式の過半数を取得するような逆取得の場合の取引の際には、承継会社が取引実行後は連結決算の対象となるため、より本格的なデュー・デリジェンスを行わなければなりません。 ④分割会社が自社を対象とするデュー・デリジェンスの要否 会社分割を行う際には、分割会社の事業との関係での取引を実行する際の問題点の有無や取引の実行が分割会社の事業に及ぼす影響も確認しておく必要があります。分割会社が自ら事業を対象として行うデュー・デリジェンスの場合、会社分割の実行が第三者との間で締結している重要な契約の条項、たとえば、借入契約等の禁止規定に抵触しないのか否かを含めて会社分割の実行の支障となる障害の有無を確認する必要があります。また、会社分割を行う際に分割会社の側で重要となるのが、具体的にどの権利・義務を、あるいは資産・債務を会社分割の対象とするかの検証作業です。 ⅱ)デュー・デリジェンスのタイミング デュー・デリジェンスの開始時期は、会社分割にかかる取引に関する検討の進捗状況や実行までのスケジュールに応じて検討されることになります。一般的には最終契約の締結前の中間ステップとして基本合意書が締結されるケースでは、予備的なデュー・デリジェンスを行った後、基本合意書を締結し、その後に本格的なデュー・デリジェンスを行います。 本格的なデュー・デリジェンスでは、一般的に、関連資料の開示を請求し、開示された資料の検討を経て、相手方の経営陣や担当者に対するインタビューを行い、必要に応じて現地視察などのステップを踏むのですが、資料開示から1ヵ月程度で終了することが多いようです。 ⅱ)デュー・デリジェンスの留意事項 合併取引に際してデュー・デリジェンスを実施する場合、法務の観点から特に注意すべき事項は、次のとおりです。 ア.対象となる事業の遂行に必要な資産、権利、契約等の把握 会社分割では、会社分割契約・計画により承継会社・設立会社に移転・承継させる権利、義務が定められますが、その際、会社分割契約・計画に会社分割の対象となる事業を下属して遂行していくために必要な資産・権利や契約等をすべて含めるべきことは要求されていません。したがって、M&A取引の買い手側は、デュー・デリジェンスにより、何が会社分割の対象となる事業に必要なのかを把握する必要があります。さらに、会社分割の対象となる事業が分割会社の社内で分割会社の他の事業部門からどのようなサポートを受けているのか等の内部取引についても把握する必要があります。最終契約締結の時点では、このような資産・権利等の使用契約やサービス契約の条件として合意ができていない場合には、その後合意が成立し契約が締結されることを取引の前提条件とすることになります。また、買い手側がデュー・デリジェンスにより、不要な資産・権利・契約を把握した場合には、これを会社分割の対象から除外することを検討することになります。 また、会社分割を用いたM&A取引の売り手側が行うデュー・デリジェンスも同じように重要です。会社分割の対象となる事業に関連している資産・権利・契約等を把握し、また、他の事業との内部取引等相互依存関係について把握することが、売り手側から見た場合の最適な会社分割の対象の確定や、会社分割実行後に売り手側が承継会社・設立会社からサービスの提供を受ける必要の有無やその必要がある場合の条件の検討の前提として必要です。 イ.許認可関連 会社分割の場合には、会社分割によりその対象となる事業を承継会社・設立会社に承継させること自体に関係官庁の諸認可が必要な場合があり、また、承継会社・設立会社の側で会社が分割の対象となる事業の遂行に必要な許認可を新規に取得ことが必要となる場合が少なくありません。このような許認可を洗い出して、その対応のために必要となる手続きの有無・内容、その手続きかかる期間・コストは、合併の内容やスケジュールに影響を与えるため、重要となります。 ウ.相手方からの同意取得が必要な重要契約の有無 会社分割では、取引を実行した結果、契約の当事者が交替することになり、この点について会社分割による移転・承継の対象となる重要な契約がどのように規定しているかを把握することがデュー・デリジェンスの中心的なテーマの一つである。会社分割では、原則として相手方当事者の同意を得ることなく、その対象とされた契約を分割会社から承継会社・設立会社に移転・承継させることができます。 しかし、相手方当事者の同意を得ることなく会社分割による移転・承継を行うことが禁止されている場合や、契約の準拠法が外国法である場合等については、この原則に依拠することに問題がある。また、会社分割の対象が承継会社の株式であり、会社分割の結果承継会社の株主構成が大きく変わるような場合には、承継会社の契約に規定されているいわゆるchange of
control条項への抵触ももんだとなります。また、そもそも会社分割を禁止する規定を含んだ契約は、分割会社および承継会社の双方で問題となります。したがって、これらのような契約については、会社分割の実行に先だって相手方から同意を得る必要の有無や同意が得られることを取引実行の条件とする必要性の有無を検討する必要があります。 エ.重複契約の有無 会社分割の対象となる事業が承継会社の既存の事業と同種のものである場合等、分割会社と承継会社がそれぞれ同一の相手方との間で仕入契約や販売契約等の同種の契約を締結している場合、分割会社が締結している契約が会社分割によりそのまま承継会社に承継されると、同一当事者間で同種の取引のための契約が複数併存する時代が生じてしまいます。両方の契約の条件が異なる場合には、どちらの条件を適用するかの判断をしなければなりません。そのため、重複契約の有無とその条件をデュー・デリジェンスで確認する必要があります。 重複契約の処理としては、分割会社の契約条件の方が、承継会社の契約条件よりもその契約の相手方当事者にとって有利である場合は、分割会社が締結している重複契約を会社分割の対象から除外するという方法も検討の対象となるでしょう。しかし、契約が承継されない場合に、会社分割により分割会社の側で分割会社にそのまま残る重複契約に基づく義務を履行できず債務不履行責任が発生するような場合には、この問題への対応を検討しなければなりません。 オ.分割を要する契約の有無 例えば、会社分割の対象となる事業と対象とならない事業の双方で、同一の契約に基づきリース資産、システム、特許権等を使用しているような場合には、会社分割実行後これをどのように取り扱うかが問題となります。 カ.クロスライセンス契約 グロスライセンス契約とは、特許権等知的財産権の権利者同士が互いに相手方当事者の知的財産権を利用することを許諾するライセンス契約のことです。このような契約では、相互に使用料の支払いを不要とする場合も多く、また、両当事者の相対的な技術的優位性や発明の技術の利用決定等を考慮して、使用料の支払いの要否と料率等が定められることになります。 このようなクロスライセンス契約が、会社分割の対象となる事業とそれ以外の事業の双方に関連している場合には複雑な問題が生じる可能性があります。まず、相手方当事者へのライセンスの対象となっている分割会社が保有する知的財産権が会社分割により分割会社と承継会社・との間に分属することとなる場合に、会社分割実行後の相手方当事者に対するライセンスの義務をどのように履行するか、さらに、このクロスライセンス契約をどのように取り扱うべきかが問題となります。その他の問題となるケースがあり、クロスライセンス契約の取扱いは複雑な問題に発展する可能性があり、デュー・デリジェンスの際には十分な配慮が必要となります。 キ.借入に関する契約 分割会社が締結しているローン契約とこれに基づく債務を会社分割の対象に含めて承継する場合、貸付人との間で協議を行いその同意を得ておく必要がある場合が多くあります。該当するローン契約があるかを確認する必要があります。 ク.根抵当権 根抵当権については、その元本の確定前に根抵当権の被担保債務の債務者を分割会社とする会社分割があった場合には、その根抵当権は、会社分割の当時存在する債務ならびに分割会社および承継会社・設立会社が会社分割後に負担する債務も根抵当権の対象とされている種類の債務の範囲内で担保することになり、根抵当権設定者の地位を有する者からすれば想定していない債務が担保の対象に追加される可能性があるので、会社分割の効力発生までに事前に元本の確定を行うなどの対応を検討すべきこととなります。 ケ.偶発債務等の潜在債務 偶発債務等の潜在債務の発生原因は様々なものが考えられるが、実務上問題になるものとしては、環境問題、PL問題、知的財産権の侵害を含む紛争、経営指導念書等を含む保証、未払い残業代などがあげられます。デュー・デリジェンスを通じて偶発債務等の潜在債務の原因となりうる事項の存在が確認された場合、M&A取引の買い手側は、会社分割による移転・承継の対象からかかる偶発債務等の潜在債務を除外することを検討するほか、会社分割の効力発生後に同じような事実関係が継続することにより想定外の債務を負担する可能性の有無を検討する必要があります。とくに後者については、事実関係を会社分割までに変更できないかぎり、会社分割に対して補償の請求求めることができないようにしておくか、対価の算定にリスクを織り込む必要があることになります。 ü
基本合意書 上場会社同士の会社分割を利用した大規模な事業の承継を行なおうとする場合には、正式な会社分割契約その他取引に関連するその他の最終的な合意事項を盛り込んだ確定契約に至る前の段階において、基本合意書が締結されることが少なくありません。また、このような場合でなくても、最終契約の締結に向けてのステップとして基本合意書が締結されることも多いです。 ・基本合意書の内容 基本合意書の内容は、個々の場合に応じて様々なものとなります。以下で、基本合意書に含まれそうな主要な項目について簡単に見ていきたいと思います。 ⅰ)目的 多くの基本合意書では、最初に、会社分割にかかる取引の目的や基本合意書締結の目的等が規定されています。この項目は、当事者の具体的な権利義務を設定するものではなく、会社分割により取引を行う意向とその意義等を確認するものであることが多いです。なお、ストラクチャーとして会社分割以外の方法を引き続き検討する場合には、会社分割を利用することを明確には記載しないこととなります。 ⅱ)会社分割を用いた取引の具体的なストラクチャーおよび主要な条件 想定されている取引の具体的ストラクチャーやその基本的な条件について基本合意書に記載するか否か、記載するとした場合にどこまで詳細に記載するのかということが、実務上は大きな検討課題となりますとくに、取引の具体的なストラクチャーを確定したうえで、対価を含む基本的な条件について合意し基本合意書に記載するためには、その時点までに会社分割の対象となる事業に関する事業価値評価等が確実性を持って行われることがひつようです。しかし、取引公表の前のデュー・デリジェンスの実施には制約があります。 ⅲ)誠実交渉義務・独占交渉義務 基本合意書締結の段階では会社分割にかかる取引の詳細な条件がすべて決定されていない場合が多く、そのような場合には、取引の詳細かつ具体的な条件の決定に向けた交渉が当事会社間で行われるわけです。その交渉を誠実に行うということを規定したのが誠実交渉義務です。基本合意書では、この誠実交渉義務には法的拘束力を持たせることが一般的です。合併を行うことに関して基本的に合意しているので、誠実に交渉を行うのは当然のことと言ってもいいですが、念のために規定するところもあります。 誠実交渉義務に加えて独占的な交渉義務まで規定するかどうかは、個別の案件の事情によります。たとえば、基本合意書締結後に本格的なデュー・デリジェンスを行う場合や、基本合意書締結後に改めて詳細な事情に黙づいて確認的なデュー・デリジェンスを実施する場合など、基本合意書締結後は準備を本格化させることにより、それまでの期間と比べて費用が多大になる場合が多くなります。さらに、対外公表によって、競業他社その他の第三者が当事会社の一方に対してより良い条件を提案する等して干渉してくることも想定されます。そこで、交渉において第三者の干渉してくる可能性を低くするために、基本合意書に独占交渉義務を課することがあります。このような独占交渉義務に関する規定が設けられる場合には、独占交渉義務が適用される期間についても規定されるのが一般的です。一般的には、独占交渉期間は3~6ケ月程度とすることが多いようです。 ⅳ)解約金、違約金 基本合意書を締結したものの一方の当事者の都合により最終契約の締結に至らなかったり、独占交渉義務から解放されるために支払われる解約金や違反したときの違約金に関する規定を設けることもあります。この場合、違約金の金額が低額である場合には、違約金を支払えば第三者と交渉できてしまうとみなされる危険もある一方、違約金が高額である場合には不当な制限となる危険もあるので、違約金額については慎重な判断が求められます。 ⅴ)デュー・デリジェンス 取引に関する公表がまだされていない段階では情報管理の観点から関係者の範囲を極力限定せざるを得ないため、基本合意書を締結して取引の関する公表までにデュー・デリジェンスを完了させているのは稀です。特に基本合意書で対価に関する事項が定められていない場合は、基本合意書締結後に本格的なデュー・デリジェンスを行ったうえで、その結果も踏まえて対価等の交渉が行われます。また、基本合意書で対価等が定められている場合でも、事後的に確認的なデュー・デリジェンスが行われることも少なくありません。このように基本合意書締結後にデュー・デリジェンスが行われるので、基本合意書にデュー・デリジェンスの実施に関する規定が設けられることがあります。その場合、デュー・デリジェンスの実施およびその具体的範囲・方法、それに対する受入側の協力等を双務的に規定する一般的です。 ⅵ)取引の実行に向けた準備の推進 取引の実行に向けたデュー・デリジェンスの実施を含む検討・準備作業は、会社分割の対象となる事業の規模が大きくなればなるほど膨大になり、その準備にかかる手間・時間は看過しえないものがあります。しかし、基本合意書を締結し、取引について公表することによって、社内の関係部署と担当者が広くその検討・準備作業に関与できるようになります。基本合意書には、このような目的で、事業統合準備委員会の設置に関する規定を設けることがあります。 ・基本合意書の効力 基本合意書は会社法が規定しているわけではなく、そこに記載されている事項について、一律に同じ効力が認められることにはなりません。合併の目的や合併の条件に関する事項などは合併契約書を締結するまでの間に、紆余曲折を経ることが一般的です。この場合、基本合意書に記載された内容と最終的に合併契約に記載された内容に異同が生じたとしても、原則として、当事会社および取締役は、会社に対しても株主に対しても債権者に対しても、法律上の責任を問われることはありません。 なお、当事会社が上場会社の場合には、基本合意書を取り交わした時点で。合併について公表されるので、その後、基本合意書の内容を変更・修正する場合には金融商品取引法の問題、例えば風評の流布や偽計等の禁止(金商法158条)違反や相場操縦(金商法159条)など、に該当する可能性があることに注意する必要があります。 ・基本合意書の取り交わしと取締役会の承認 基本合意書の取り交わしには、とくに当事会社各社の取締役会の承認決議までは必要ないという見解が多いようです。しかし、基本合意書に記載された事項の中には、違反した場合に損害賠償が請求される可能性があるものもあり、そのような事項については取締役会の承認を経るほうが望ましいと考えられます。 ü
吸収分割契約 吸収会社分割の内容や条件を規定する法律文書が吸収分割契約です。会社分割に関して個別具体的なケースで生じる様々な問題点を検討したうえで、その結果に基づき会社分割をしようとする場合には、会社分割契約で規定することが要求されている事項以外にも重要な問題点の処理についてあらかじめ合意・決定しておくことが望ましいと考えられます。 ・吸収分割契約の法的性質 吸収分割契約は、同時会社の間では債権的効力を有するものですが、それと同時に組織法上の契約でもあります。吸収分割が組織法上の契約であることの具体的な効果として、原則として株主総会の承認決議を要すること、体表者が契約を締結すべきこと、第三者に対して効力を有するなど、単なる債権的効力を超えた効力を持つこと、そして会社分割無効の主張は会社分割無効の訴え(828条1項)によらなければいけないなとの特色をあげることができます。 また、吸収分割契約が債権的効力を有するといっても、吸収分割当事会社は、有効な吸収分割契約が締結されても、会社法上の手続きに従って吸収分割の効力を発生させるために必要な行為や措置を講ずるように義務づけられているにすぎません。会社分割の効力は、効力発生日に生じ、それまでに株主総会の承認が必要な場合は承認決議を受け、債権者異議手続きを終了し、また反対株主の買取請求権などの会社法の定める手続きを介しておかねばなりません。 ・吸収分割契約の法定決定事項 吸収分割契約で定めるべき事項は法定されています(758条、760条)。会社法が「吸収分割契約等」と呼んで吸収分割承認決議または総社員の同意の対象としているのは法定された事項に限り、それ以外の事項につついては、株主総会決議または総社員の同意は法的には、法定記載事項とは別の決議・同意であると解されています。しかし、1本の吸収分割契約として法定の決定事項と一体化して理解すべき非法定の決定事項もあるので、個別に検討する必要があります。 ü
吸収分割契約の締結 ・株主総会の特別決議または総社員の同意 吸収分割は、吸収分割会社と承継会社との間に締結される吸収分割契約に基づいて行われます。吸収分割契約は、簡易分割または略式分割に該当する場合を除き、株主総会の特別決議または総社員の同意を要するのが原則です(783条1項、784条1、3項、793条1項)。 簡易分割または略式分割に該当する場合を除き吸収分割契約の締結に株主総会特別決議が必要な理由は、吸収分割契約が社員の財産的地位に直接大きな影響を与えるためです。さらに、吸収分割契約は、吸収分割会社にとっては、とりわけその中心的な事業が承継会社に承継される場合には株主権の縮減となる現象が生じ、吸収分割会社の株主は会社分割の対象となった権利義務について意思決定を及ぼす機会を喪失し、吸収分割承継会社が吸収分割会社の子会社である場合にはその権限は実質的に吸収分割会社の経営陣に移転することになります。また、吸収分割会社の権利義務の全部が吸収分割承継会社に承継される場合には、実質的に会社の目的の変更につながることが少なくないからです。他方、吸収分割承継会社とその株主にとっては、吸収分割により吸収分割会社の全部または一部を承継するのだから、部分的な合併ともいうべき効果が生じ、その財産的地位に重大な変容が生じる可能性があります。 ・吸収分割契約の締結 吸収分割契約は、吸収分割当事会社の代表取締役・代表執行役・持分会社を代表する社員が会社を代表して吸収部活契約を締結します。吸収分割契約は当事者間で締結される契約であって、両当事会社の社員間の契約ではないため、会社分割契約を締結できるのは、当事会社の代表権を有するものに限られます。当事会社が株式会社である場合には、取締役会設置会社であるときは取締役会の決議を要し(362条2項1号)、非取締役会設置会社であれば取締役の過半数による決定が必要となります(348条2項)。 ü
吸収分割手続きの概要 会社分割は、分割会社の権利義務を一般承継の形で承継会社に移転させるという合併によく似た効果を生じさせる佐敷法的な行為であり、合併と同じように会社分割の当事者である会社の株主および債権者の双方に重大な影響を及ぼすことから、会社法は、合併の場合と同じように株主および債権者の利益を保護するために慎重な手続きを定めています。吸収分割において、分割会社と承継会社それぞれに必要となる手続きは下表のとおりです。 会社法では、吸収分割の主要な手続きである株主総会での承認決議、反対株主による株式買取請求の手続き、分割会社の新株予約権者による新株予約権買取請求の手続き、債権者保護手続きなどについて、相互の関連は求められておらず、それぞれ同時に並行して進めて、効力発生日までに終えればよいことから、時間的な先後関係を定めずに、並行して手続きを行うことが可能となっています。 ü
会社法以外の会社分割手続き─上場会社の場合の手続き 会社分割当事会社の両方またはいずれか一方が上場会社の場合には、会社法上の手続以外にも、金融商品取引法や上場規則の手続きが必要となります。 ・金融商品取引法上の手続き ⅰ)組織再編成にかかる開示制度 金商法は、会社分割のような組織再編成において対価として発行・交付される有価証券の発行者に関する情報開示を義務づけています。このような発行開示を求める趣旨は、組織再編成に関する情報は投資者にとっても重要な投資情報であり、また、会社法で組織再丙の対価の柔軟化が認められた結果、合併の場合であれば消滅会社の株主に存続会社以外の会社の株式が交付される場合には情報が入手できないおそれがあるため、その会社に関する情報開示を義務づけることなどにあります。 ⅱ)特定組織再編成発行手続 合併の場合の開示規則を具体的に見ると、合併に当たって消滅会社の株主に交付される合併対価が存続会社の株式、第三者の株式等の金商法2条3項が定義する第1項有価証券である場合、消滅会社の株主等が50名以上である場合に、「特定組織再編成発行手続」に該当し、発行価額の総額が1億円以上である場合には有価証券届出書の提出が義務づけられます(金商法4条1項5号)。 これに対して、合併に当たって消滅会社の株主に交付される合併対価金商法2条3項が定義する第2項有価証券である場合には、消滅会社の株主等が500名以上に、「特定組織再編成発行手続」に該当し、発行価額の総額が1億円以上である場合には有価証券届出書の提出が義務づけられます(金商法4条1項5号)。 ⅲ)臨時報告書の提出義務 吸収分割の場合の分割会社、承継会社のいずれかまたは両方が金商法の継続開示義務を負っている場合には、一定の軽微基準を満たさないかぎり、継続開示義務を負っている会社は、吸収分割が行われることを取締役会等の機関が決定した場合に、臨時報告書を提出しなければなりません(金商法24条の5第4項、開示府令19条2項7号)。 臨時報告書の提出を免れる軽微基準とは、継続開示義務を負っている会社の資産の額が、最近事業年度末日の純資産額10%以上減少し、または増加することが見込まれず、かつ、継続開示義務を負っている会社の売上高が会社の最近事業年度の売上高の3%以上増加することが見込まれない場合です(開示に関する内閣府令19条2項)。 ・金融商品取引所の上場規則の手続き ⅰ)適時開示 上場会社の取締役会等が合併を行うことを決定した場合や、公表済の合併を行なわないことを決定した場合には、上場規則に従って開示が必要となります。一般的な開示事項は次のとおりです。 ①会社分割の目的 ②会社分割の要旨 (1)会社分割の日程 (2)会社分割方の式 (3)会社分割にかかる割当ての内容 (4)分割会社の新株予約権および新株予約権付社債に関する取扱い (5)会社分割により増減する資本金 (6)承継会社が承継する権利義務 (7)承継会社の債務履行の見込み ③会社分割に係る割当ての内容算定根拠等 (1)割当ての内容の根拠および理由 (2)算定に関する事項 (3)上場廃止となる見込みおよびその理由 (4)公正性を担保するための措置 (5)利益相反を回避するための措置 ④会社分割の当事者である会社の概要 (1)名称 (2)所在地 (3)代表者の役職・氏名 (4)事業内容 (5)資本金 (6)設立年月日 (7)発行済株式総数 (8)決算期 (9)従業員数 (10)主要取引先 (11)主要取引銀行 (12)大株主および持株比率 (13)当事会社間の関係など a.資本関係 b.人的関係 c.取引関係 d.関連当事者への該当状況 (14)最近3年間の財政状態および経営成績 (15)分割または承継する事業部門の概要 a.分割または承継する部門の事業内容 b.分割または承継する部門の経営成績 c.分割または承継する資産、負債の項目および帳簿価格 ⑤会社分割後の状況 (1)名称 (2)所在地 (3)代表者の役職・氏名 (4)事業内容 (5)資本金 (6)決算期 (7)純資産 (8)総資産 ⑥会計処理の概要 ⑦今後の見通し ⅱ)合併等による実質的存続性の喪失に係る上場廃止基準(不適当な合併等) 上場会社が非上場会社との間で吸収合併等を行った結果、上場会社に実質的存続性が認められず、かつ一定期間内に新規上場基準に準じた審査に適合しない場合には、上場廃止となります(上場規程601条)。これはいわゆる裏口上場の防止を木でとしたものです。 上場会社が非上場会社に対して吸収合併等をする場合には、上場会社は、非上場会社の事業の概況、事業の状況および設備の状況等を記載した「非上場会社の概要書」を、合併等の決議または決定後に速やかに東京証券取引所に提出しなければなりません(上場規程421条)。実務上は、決定の2週間前までに事前相談することが要請されています。 ü
会社法以外の会社分割手続き─独占禁止法の規制 独占禁止法は、第4章(9~18条)で、株式取得および保有、役員兼任、合併、会社分割、株式移転および事業譲受けについて一定の規制を課しており、一般に企業結合規制と呼ばれています。 独占禁止法15条の2は、企業結合規制の1つとして会社分割を規制していて、一定の取引分野における競争を実質的に制限することになる会社分割および不公正な取引方法によるものである会社分割を禁止しています。このような違法な会社分割を公正取引委員会が事前に探知するために、国内売上高合計額が一定額以上の会社同士の会社分割について、当事会社に会社分割計画を事前に公正取引委員会に届け出ることを義務づけています(独禁法15条の2第2項)。この届出を行った会社は、届け出受理の日から30日の待機期間が経過するまで合併してはならないことになっています(独禁法15条の2第4項)。 ・届出 ⅰ)届出要件 吸収会社分割取引において事前届出が必要とされているのは次のいずれかを満たされている場合です。 ①吸収分割しようとする会社のうち、吸収分割しようとするいずれか1つの会社の国内売上高合計額が200億円を下回らない範囲内において政令で定める金額(現時点では200億円)を超え、かつ吸収分割によって事業を承継しようとする会社の国内売上高合計額が50億円を下らない範囲内において政令で定める金額(現時点では50億円)を超える場合。 ②吸収分割しようとする会社のうち、吸収分割しようとするいずれか1つの会社の国内売上高合計額が50億円を下回らない範囲内において政令で定める金額(現時点では50億円)を超え、かつ吸収分割によって事業を承継しようとする会社の国内売上高合計額が200億円を下らない範囲内において政令で定める金額(現時点では200億円)を超える場合。 ③吸収分割しようとする会社のうち、吸収分割しようとするいずれか1つの会社の国内売上高合計額が100億円を下回らない範囲内において政令で定める金額(現時点では100億円)を超え、かつ吸収分割によって事業を承継しようとする会社の国内売上高合計額が50億円を下らない範囲内において政令で定める金額(現時点では50億円)を超える場合。 ④吸収分割しようとする会社のうち、吸収分割しようとするいずれか1つの会社の国内売上高合計額が30億円を下回らない範囲内において政令で定める金額(現時点では30億円)を超え、かつ吸収分割によって事業を承継しようとする会社の国内売上高合計額が200億円を下らない範囲内において政令で定める金額(現時点では200億円)を超える場合。 ⅱ)届出の必要がない場合 上記の要件を満たす場合であっても、すべての合併会社が同一の企業集団に属する場合には、届出は不要です(独禁法15条の2第2項但書)。これは、グループ会社間の合併は結合関係が新たに形成されたり、強化されたりするわけではないと考えられるからです。 ⅲ)届出の様式および添付書類 届出書のフォーマットは公正取引委員会のホームページからダウンロードできます。記載上の注意も、そこにあります。 https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/kigyoketsugo/todokede/bunkatsu2_files/10_youshiki.doc この届出書に、次の書類を添付します(企業結合規則5条)。 ①届出会社(当事会社のすべて)の定款 ②分割契約書または分割計画書の写し ③届出会社の最近1事業年度の事業報告、貸借対照表および損益計算書 ④届出会社の総株主の議決権の100分の1を超えて保有するものの名簿(届出日現在) ⑤届出会社において会社分割に関し株主総会の決議等があった時は、その議事録等 ⑥届出会社の属する企業集団の親会社の作成した有価証券報告書等の企業集団の財産および損益の状況を示すために必要かつ適当なもの ⅳ)届出の提出 届出書の提出の時期について明確な規定はありませんが、基本的には、合併予定日から遡って1年程度が目途と考えられています。届け出先は、原則として存続又は設立する会社の本店所在地を管轄する公正取引委員会の事務所です。 届出書を提出してから30日は待機期間となるので、その間に合併を行なうことはできません。 ü
吸収分割の当事会社 旧商法下では、吸収分割の当事会社は、株式会社と有限会社に限定されていました。会社法が制定されると、有限会社はなくなり、株式会社に加え持分会社の種類の1つである合同会社が株式会社を承継会社とする吸収分割を行うこと、および株式会社または合同会社が持分会社を承継会社として行う吸収分割も認めています。このようにして、持分会社形態をとる中小企業にも会社分割による企業組織再編を行うことが可能になりました。ただし、会社分割ができる会社については、合名会社と合資会社の場合、社員の全部または一部が会社の債務について債権者に対して責任を負うとされているので、会社の資産と負債を社員と切り離して他の会社に承継させることは債権者を害することになりかねないので、認められていません。承継会社には、このような制限はありません。 ・持分会社の会社分割手続 分割会社が合同会社であり、その事業に関して権利義務の全部を他の会社に承継させる場合あるいは承継会社・設立会社が持分会社であり、分割会社が承継会社・設立会社の社員となる場合、会社分割を行うためには、定款に別段の規定がない限り、効力発生日の前日までに総社員の同意を得ることを要する(793条1項2号、813条1項2号、802条1項2号、760条4号)。この他の場合は、分割会社および承継会社の社員に生じる影響は通常の事業譲渡と同じであり、総社員の同意は要求されず、590条、591条または定款の定めに従った要件を充たせば足りる。持分会社では株式会社の場合の反対株主の買取請求は生じません。債権者保護手続については大きな差異はありません。 ・清算中の会社 清算手続に入っている会社は、会社分割を受けて権利義務を承継することはできませんが、その資産等を処分するために会社分割を行うことは可能です(474条2号、643条2号)。 ただし、清算手続中の債務の弁済については一定の制限がある(500条、661条)ため、会社分割の実行に慣例して生じた債務の弁済も同じように制限されます。また、清算に際しては清算人が選任される(474条、646条)ため、会社分割に関する機関決定については、株主総会の決議や総社員の同意を必要とするものを除き、清算人あるいは清算人会が代わって行います(482条、650条)。 ・破産手続中の会社 破産手続き中の会社は、自らが吸収分割会社となる会社分割を行うこともできません。破産会社の破産座異端の管理処分権は破産管財人にあり、会社法の手続きを守ることができないからです。 それに対して会社更生手続中の会社は、更生計画に会社分割契約または新設分割契約に規定すべき事項を規定することができ、その定めに従い会社分割を行うことができるとされています(会社更生法45条1項7号)。更生計画は、関係人集会で多数決により承認される必要があり(会社更生法196条)、加えて裁判所の認可を受ける必要があります(会社更生法199条)。なお、会社更生の手続きの中で、更生計画に基づき行われる会社分割については、公正会社の債権者の会社法に基づく債権者保護手続や公正会社における法定書類の事前備置きの規程は適用されません(会社更生法222条、223条)。 民事再生法における再生手続中の会社は、再生計画中で会社分割について定めることができる旨の果て委はありません。これは、会社更生法が更生管理人に更生会社の資産の管理・処分の顕現をすべて移管してしまう手続きであり、そのため、いったん会社更生手続が開始されると会社法に基づく会社分割はできなくなってしまうのに対して、民事再生手続きでは、再生会社の取締役や株主等の権利に制約は加えられるが、再生会社の資産の管理・処分権は依然として会社法が規定する枠組みに従って行われます。それで、再生会社は会社法の規定するところに従い会社分割が可能とされています。 ü
吸収分割による承継の対象─事業に関して有する権利義務の全部または一部 ・「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」の意義 会社分割の制度は平成12年の旧商法改正により導入されたものですが、その際には「営業の全部または一部」に関する権利義務を包括して承継する制度として位置づけられていました。従って、特定の「資産」のみを対象として会社分割を行うことは許容されていませんでした。平成17年に会社法が制定されると、「営業の全部または一部」の文言は、「事業に関して有する権利義務の全部または一部」に変更されました。それにより、特定の「資産」あるいは「債務」のみを対象とする会社分割も許容されることとなりました。しかし、これはあくまでも会社法上の取扱いであり、他の法令の規制で会社分割に該当するかどうかは、それぞれの法令で別に検討する必要があります。会社分割の場合には、特定の事業の承継について許認可の承認できる取扱いを、会社法以外の法令で決められていますが、特定の「資産」や「債務」のみを対象とする会社分割はこのような取り扱いをうけられないものと考えていいと思います。 また、金商法のもとでの公開買付では、一般論として会社分割の結果としての上場会社の公開買付規制の対象とする実務上の取扱いが定着していますが、上場会社の株式のみを対象とする会社分割は公開買付規制の対象となります。 以上の通り、会社法のもとでの会社分割では、特定の「資産」や「債務」のみを対象とする会社分割を行うことも可能ですが、実務上行われている会社分割は「事業」を対象として行われています。 ü
債務超過となる権利義務の承継の可否 承継会社の承継債務額が承継資産額を超える場合、または承継会社が分割会社に対して交付する金銭等の帳簿価額の承継資産額から承継債務額を差し引いた額を超える場合すなわち、いわゆる分割差損が発生する会社分割行おうとする時は、承継会社の取締役は、株主総会決議に際してその旨を説明しなければなりません(795条2項)。これは、簿価によれば債務超過となる権利義務を対象とする会社分割が可能であることを前提とし、分割会社なおいて分割の直前の適正な簿価を付す方法を適用する承継する資産・負債がそれぞれ適正な帳簿価額で計上されるために、会社分割の対象である権利義務の簿価が債務超過であれば原則として会社分割差額が生ずることに対する規制です。 ü
債務の履行の見込み 旧商法では「各会社の負担すべき債務の履行のこみこみあること及びその理由を記載したる書面」が株主および債権者に対する事前開示書類とされており、債務の履行の見込みがあること会社分割の効力要件であるとされていました。この要件が掛ける場合は、会社分割の無効事由となりうるわけです。さらに、会社分割は一種の現物出資であるという考え方から、会社分割の対象となる営業の純資産価値がプラスであることが必要であるとされていました。その結果、会社分割の対象となる営業の純資産価値マイナスであれば、そもそも会社分割などしても意味がないわけで、また、純資産価値はプラスではあっても、会社分割により営業を承継する会社のキャッシュフロー上債務の返済に支障が生じると見込まれる場合にも、債務の履行の見込みに問題が生じることとなり、会社分割はできませんでした。他方で、営業を切り出して承継させる会社の側でも、会社分割を行った結果、その純資産価値がマイナスになり、あるいは債務の弁済にキャッシュフロー上の支障が生じるような場合は、債務の履行の見込みがなくなることとなり、会社分割はできないとされていました。 それが、会社法の場合となると、この「債務の履行の見込み」は会社分割の要件とはされていません。つまり、「債務の履行の見込み」がない会社分割であっても会社法では認められるというわけです。また、会社分割の対象となる資産・債務の純資産価値がプラスである必要もないものとされました。しかし、会社分割の対象となる資産・債務の純資産価値がマイナスである場合には、吸収分割において承継会社でその承認を受けるための株主総会でその旨を説明することが要求されます(795条2項)。また、分割会社においても、会社分割を行う結果その会社の純資産価値がマイナスになる、つまり債務超過になる場合、株主総会における株主への説明責任の視点から、責任を行う必要があります。この説明を怠ったばあい、会社分割計画または契約承認の株主総会決議の取消事由に該当する可能性があります(831条)。 ü
承継 757条後段の「承継」とは一般承継を意味します。一般承継には、次の2つの意義があります。第1に、会社分割により、吸収分割の場合は吸収分割契約に定められた効力発生日に、会社分割の対象とされた吸収分割会社の権利義務が、法律上の効果として、個別の承継であれば必要とされる個々の権利義務に関する手続きや行為を要することなく、吸収分割承継会社に承継される。第2に、個別承継であれば承継させることのできない譲渡性のない権利義務を一般承継であれば承継させることのできる余地が生ずるという点です。会社分割に一般承継の効果が認められているのは、会社経営上有意義な組織再編の負担を軽減し、容易に行うことができるようにしたためだと思われる。 合併の場合と比べると、一般承継は、個人の相続の一般承継とは異なり、当事会社の意思決定による法律行為に基づき発生するという点で、会社分割の場合と共通しています。しかし、合併の場合には、合併証明会社は合併後解散し、その権利義務は包括的に存続会社に承継されます。これに対して。会社分割の場合は、分割会社は会社分割後も存続します。従って、会社分割で承継されるのは、会社分割の対象となる権利義務に限られます。
計算書類等の監査等(436条) 計算書
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